ソフトウェアを開発する際に、
「アジャイル開発」という手法が大きな実績をあげています。
「アジャイル開発」は、顧客の要望などで頻繁に変化する
仕様変更の要求を柔軟に受け入れつつ、スピード感をもって開発を進める手法です。
そんなアジャイル開発から派生して生まれたのが、「アジャイル思考」です。
アジャイル思考は、めまぐるしく状況が変わるVUCAの時代において、
プロジェクトマネジメントや新規事業開発、組織デザインの手法など、
さまざまな分野での活用が広がっています。
このコラムでは、そんなアジャイル思考はどんな思考法なのか、
必要性、メリット、デザイン思考との関係性、活用事例についてご紹介しています。
<目次>
・アジャイル思考とは
・アジャイル思考のもととなったアジャイル開発とは
・アジャイル思考が必要とされる背景
・アジャイル思考の特徴
・アジャイル思考とデザイン思考の関係性
・アジャイル思考のメリット
・アジャイル思考のフレームワーク
・アジャイル思考の活用事例 ~うまくいかないプロジェクトの特徴~
・アジャイル思考の活用事例 ~プロジェクト進行に必要な思考と行動のバランスとは~
・アジャイル思考の活用事例 ~アジャイル思考を活かしたプロジェクト進行のメリット~
・アジャイル思考を活用できるリーダーとは
・アジャイル思考のもととなるデザイン思考を身につける研修事例紹介
アジャイル思考とは
アジャイル思考の、「Agile(アジャイル)」とは、
「素早い」「機敏な」という意味の英語です。
つまりアジャイル思考とは、短期間で素早くPDCAサイクルを回し、
仕事のアウトプットの質を高めていくための思考法です。
アジャイル思考のもととなったアジャイル開発とは
アジャイル思考は、ソフトウェアやシステムを開発するときの手法のひとつである、
アジャイル開発から生まれた思考法です。
アジャイル開発では、基本的な機能ごとの単位で、
問題提起→現状認識・分析→要件定義→設計・計画→開発→テスト→リリース
という工程を進めます。
皆さんの身の回りにも、頻繁にアップデートを繰り返している
アプリやサービスがあるのではないでしょうか。
早いものでは、2週間おきに開発中の製品を納品し、ユーザーに試してもらいます。
そうすることで、現状のニーズに応じた修正を繰り返すことが可能になるのです。
また、アジャイル開発では、従来のプロジェクトのように、
思考する人と行動する人をわけず、行動する人が思考と判断をおこないます。
そんなアジャイル開発から生まれたアジャイル思考では、
・素早く、短時間でPDCAを回す
・トライ&エラーを繰り返す
ことが重視されます。
アジャイル思考を活用することで、新しいアイデア(思考)を
速やかに実践して(行動)、より早く失敗して改善を目指す(思考)サイクルを
コンパクトに回すことができるようになります。
そうすることでプロジェクトをなるべく早くかたちにして、
継続的にPDCAを回し、品質を向上させていけるのです。
アジャイル思考が必要とされる背景
現代は、VUCAの時代です。
コロナウイルス感染症の流行で仕事や生活スタイルが急速に変化したり、
戦争の影響で企業活動に大きな影響が生じたり、
SNSのつぶやきひとつで商品の評判が大きく変わったりなど、
“予測不能”でかつ“急速で大きな”変化が当たり前の世の中になりました。
そんな変化の激しい時代のなかで、目まぐるしい変化に適応し、
新しい価値を見出すためには、何よりもスピード感が重要です。
これまでのような縦割り企業での悠長なスピード感では、
変化のスピードについていくことは困難です。
いち早く消費者の新しいニーズをキャッチし、素早く、かつ柔軟に顧客ニーズに応える
サービスや商品を開発・改善していくことが、企業に求められています。
そんな世の中に対応できる思考法として注目を集めているのが、アジャイル思考です。
アジャイル思考の特徴
アジャイル思考の特徴は、以下の4つです。
①クライアント中心のアプローチ
アジャイル思考では、クライアントの意向を重視して考えます。
つまり、クライアントのニーズやフィードバックをもとに、
継続的に改善し続けることを前提とした思考法が、アジャイル思考です。
②アウトプットのスピード
アジャイル思考を活用することで、
プロトタイプを早期に作成することができるようになります。
新規事業開発のように新たに何かを始めるときには、“最初の一歩”を踏み出すための準備に時間がかかりすぎて、始めるときには時代遅れになっていることは多くあります。
③素早いトライ&エラーで、柔軟に解答を導く
新しいアイデアをスピーディに実行するアジャイル思考は、
トライ&エラーを短いスパンで繰り返します。
VUCAの時代に「正解」が与えられている問題はほとんどありません。
トライ&エラーを繰り返し、変化や不確実性に対して柔軟に対応することで、
「解答」をみずから導きだすのが、アジャイル思考です。
④チームワークを活かしたプロジェクト推進
アジャイル思考が根付いている組織では、チーム全体が共同で
プロジェクトの進捗状況を把握し、適宜調整をおこなうことができます。
チームコミュニケーションが活発になるのも、アジャイル思考の特徴です。
アジャイル思考とデザイン思考の関係性
ビジネスにおいて、アジャイル思考と似た意味で使われる言葉に、
デザイン思考があります。
デザイン思考は、クライアントのニーズや要望を理解し、
創造的な問題解決を促進することに重点を置いた思考法です。
つまりデザイン思考の目的は、問題解決のための創造的なアイデアを見つけることです。
アジャイル思考とデザイン思考は、両方とも
創造的な問題解決を目的としている点で共通しています。
ですがアジャイル思考は、より技術的な側面に焦点を当て、
迅速かつ効率的な開発を促進することに重点を置いています。
この点がデザイン思考との大きな違いです。
つまり、この2つの思考法は対になるものではなく、
アジャイル思考(プロジェクト推進)の前提にデザイン思考(企画)があるのです。
アジャイル思考のメリット
アジャイル思考を活用することのメリットには、以下の3つが挙げられます。
①顧客満足度を高めることができる
アジャイル思考を活用することで、
クライアントのニーズに素早く応えることができるようになります。
たとえば、従来のソフトウェア開発では、
あらかじめ全ての機能の要件定義や設計を細かく決定したうえで、
設計・開発・テスト・リリースという工程を上から順番に実行するという、
ウォーターフォール型の開発がおこなわれていました。
ウォーターフォール型の開発では、
ソフトウェア全体が利用可能な状態になった段階でクライアントによる確認がおこなわれていたため、そこから修正できる範囲には限界がありました。
ですがアジャイル思考を活用することで、ソフトウェアを機能ごとにわけ、
スピーディにプロトタイプを完成させることができます。
そうすることで、
クライアントの要望やフィードバックにより柔軟に対応することが可能になります。
結果、顧客満足度の高い商品やサービスにつながるのです。
②答えのみえないプロジェクトに対応できる
企業やクライアントを取り巻く環境はつねにめまぐるしく変化しています。
プロジェクトがスタートした当初の計画や機能の優先順位が開発途中で変更になるのも、決して珍しくありません。
アジャイル思考を活用することで、プロジェクトを細かく分解して、
短期間に素早くPDCAを回して改善し続けることが可能になります。
そのため、完成の全体像を明確に定めることができないプロジェクトを前進させ、
クライアントニーズの変化に適応することができます。
③社員やチームの成長を促進する
ウォーターフォール型では大規模なチームを編成しますが、
アジャイル型では担当領域ごとに3~10名程度の少人数チームを編成します。
そのため各メンバーの当事者意識が刺激され、仕事に積極的に取り組むようになります。
また、思考する人と行動する人をわけず、行動する人が思考と判断をおこないます。
そうすることで思考力と行動力が磨かれ、社員の自律と成長にもつながります。
さらにそのような環境では、コミュニケーションが活性化します。
仕事はチームでおこなうものです。コミュニケーションが活発なチームは、
そうでないチームよりも質の高いアウトプットを出し、成長することが期待できます。
アジャイル思考のフレームワーク
アジャイル思考を活用した代表的なフレームワークには、以下の3種類があります。
・スクラム(SCRUM)
・カンバン(KANBAN)
・エクストリームプログラミング(XP)
①スクラム(SCRUM)
複数のチームが、1つの製品を開発する場合に最適なフレームワークです。
ラグビーで、選手が肩を組んでぶつかり合うフォーメーションを指す言葉でも
ありますので、その映像をイメージしていただくと分かりやすいです。
スクラムでは、開発する製品をユーザーストーリーとして明確に定義し、
そのストーリーを完了するための「短期での期間(スプリント)」を設定します。
この期間中、デイリースクラムと呼ばれる日次ミーティングを実施し、
進捗状況を確認することで、チームコミュニケーションが活発になり、
プロジェクトを継続的に改善していけるようになります。
②カンバン(KANBAN)
タスクの流れを視覚的に管理することで、
最適な生産性と効率性を追求するフレームワークです。
「TODOリスト(バックログ)」、「進行中」、「完了」から校正される「
カンバンボード」を活用して、チームや部門ごとにボードを分割することで、
複数チームでプロジェクトを進めます。
カンバンボード上には、タスクが進んでいる列があり、
列ごとに制限された作業量が決められます。
タスクが進行すると、列から列に移動していき、進捗状況が見える化されます。
③エクストリームプログラミング(XP)
ソフトウェア開発において、品質と効率性を重視するために生まれたフレームワークです。
「変化に柔軟に対応しながらプロジェクトを進める」ことに焦点が当てられており、
スピードが求められるプロジェクトや難易度が高いプロジェクトに向いています。
アジャイル思考の活用事例 ~うまくいかないプロジェクトの特徴~
現代社会はVUCAの時代といわれ、変化が早く、激しいため、
少し先のことですら予測が難しい時代といわれています。
ですので、どんな業務を担う社員であっても、
その変化にスピード感をもって対応することが求められます。
そのためには、トライ&エラーを繰り返すことでPDCAを素早く回し、
より早く失敗して改善を繰り返す必要があります。
そんななか、たとえば
既存事業の原材料が高騰し、調達も不安定になってきたため、別の安定した収入の柱を
つくるために、新規事業を立ち上げるプロジェクトが立ち上がったとします。
そのプロジェクトリーダーから、こんな言葉が出ていないでしょうか。
「なぜ新規事業が必要なのか、言いたいことはわかるよね?」
「マイルストーンを置いて、進捗を確認すべきだ。MTGは1か月に1回がいいんじゃないかな?」
「マネタイズの計算ができる段階まで進めば、大丈夫なんだよね?」
「大丈夫。これだけのメンバーが集まっているんだから、うまくいくはずだ!」
プロジェクトリーダーからこのような言葉が出ていたら、そのプロジェクトは黄信号です。
なぜなら、上から順番に、
・承諾を強要するような聞き方をしている
・セリフが自問自答になっている
・自分が正解だと認めてほしいだけの質問をしている
・根拠がない思い込みになっている
からです。
このような言葉で進められるプロジェクトは、
なんとなく、その場の雰囲気で進んでしまいがちです。
こうした言葉が出てしまうリーダーは、考えるのが自分の仕事で、
実行するのがメンバーの仕事だと思っている可能性があります。
プロジェクトリーダーは、
自分自身も一流のプレイヤーとして活躍していることが多く、メンバーの動きを
常に把握し、先読みしつつ、計画を状況に応じて修正・判断する能力が求められます。
つまり、プロジェクトリーダーは優秀な人材が任されることが多いので、
そう思ってしまうこともやむをえないことかもしれません。
ですが、VUCAの現代において、リーダーが正しく判断するのに、
十分な時間や情報があることはまれであり、どんなに優秀であっても、
ひとりでプロジェクトを管理しきることはできません。
そこで重要なのが、
プロジェクトメンバーの思考と発言を促し、多様な視点や発想を取り入れることです。
アジャイル思考の活用事例
~プロジェクト進行に必要な思考と行動のバランスとは~
プロジェクトメンバーの思考と発言を促すとはいっても、
それだけではプロジェクトを進めることができません。
プロジェクトを進めていくためには、
思考のフェーズと実行のフェーズを繰り返していくことが必要です。
思考ばかりだと、プロジェクトが最終的にどうなってほしいかを描き、
現状を詳細に調査・分析することはできますが、かえってどこから手をつければいいか
迷ってしまったり、決断が先延ばしになる恐れがあります。
逆に行動ばかりだと、目の前にある問題を解決することはできるかもしれませんが、
日々時間に追われるようになり、自分が最善と考えることを実行するように
メンバーに強要する繰り返しに、自分は常に消耗し、
メンバーは命令に従っているだけの状態になってしまいます。
あるべきプロジェクトの進行とは、思考と行動のバランスを取り、サイクルを回すことで、組織の適応力が高い状態を維持できている状態です。
その思考と行動のサイクルをより短い期間で回すことが、現代では求められています。
アジャイル思考の活用事例
~アジャイル思考を活かしたプロジェクト進行のメリット~
アジャイル思考でプロジェクトを進めることの最大の特徴は、
プロジェクトの見直し・中断のタイミングが頻繁に発生することです。
プロジェクトを進めるときにありがちなのが、当初決めたスケジュール通りに
進めることを重要視してしまい、「おかしいな」と思っているのに立ち止まらず、
そのまま進んで結局は失敗してしまうことです。
より早く失敗して改善を目指す、というフェーズが頻繁に発生することで、
「ここまでの実績数字を見て、プロジェクトを一度見直そう」
「何か引っかかっていることがあれば教えてほしい」
「あなたの考えを聞かせてほしい」
のような言葉を、プロジェクトリーダーが発する機会が増え、現場からの見直しや中断の兆候を得やすくなりますし、中断する、という判断もしやすくなります。
アジャイル思考を活用できるリーダーとは
プロジェクトリーダーは、思考のフェーズでは多様な意見を引き出し、
行動のフェーズでは意見を一致させて、プロジェクトを推進しなくてはいけません。
たとえば思考のフェーズでは、こうありたい、こうあるべきという思考をグッと抑えて、
他者の意見や考えに興味を持ち、選択肢を増やしていきます。
そんなときには、
「〇〇について、あなたはどう思いますか?」
「〇〇について、われわれはどの程度準備ができていますか?」
「もっといい方法はないだろうか?」
「別の見方はできないでしょうか?」
「見落としていることはないだろうか?」
「どのような失敗が考えられると思いますか?」
「〇〇を実施して一番問題になりそうなことは何だと思いますか?」
「今回の行動で学んだことはどんなことでしょうか?」
のような質問を使い、多種多様な意見が歓迎されていることを伝えます。
一方で行動のフェーズでは、内省や反対意見をグッと抑えて、
チームを鼓舞し、行動を促すセリフを活用します。
たとえば、
「まずはこれだけやり遂げよう!」
「アイデアを現実にしよう!」
「〇〇を終わらせよう!」
「計画通りに進んでいるか?」
のような言葉を使うと有効です。
このような言葉を活用し、思考と行動のメリハリをつけることで、
アジャイル思考でのプロジェクト進行に求められる、思考→行動→思考のサイクルを
効果的に回すことができるようになります。
アジャイル思考のもととなるデザイン思考を身につける研修事例紹介
今回ご紹介する研修事例は、アジャイル思考(プロジェクト推進)の前提となる、
デザイン思考(企画)を身につけ、消費者の心理をつかむ導線設計から製品開発までを
担える人材育成を目的とした1日間の研修です。
弊社では、個社ごとに完全オーダーメイドで研修をご提案しております。
パートナーとして協力いただいている外部トレーナーが450名以上おり、
個社ごとに合った研修をプロデュースしております。
デザイン思考やアジャイル思考研修のバリエーションも豊富です。
本記事を参考に、是非自社に合った研修を実施してはいかがでしょうか。
テーマ:
デザイン思考研修
目的:
革新的なアウトプットをするために、デザインシンキングを中心に開発までの流れを学ぶ
ねらい:
・イノベーション創出手法であるデザイン思考とその進め方を理解する
・「デザイン思考」と「アジャイル」を統合したアプローチが、
顧客価値の創造に有効なことを学び、それぞれの思考法を身につける
学びのポイント:
・実際の成功例と失敗例から、デザイン思考をビジネスで活用するイメージを具体化する
・自分自身の感受性や価値観が他者と違うことを認識することで、多様性の価値に気づく
・デザイン思考で見つけた課題を実際に解決するための、アジャイル思考を習得する
内容:
①デザイン思考の基本
デザイン思考とは何か、ビジネスとどう関係するのかを学びます。
実際の成功例と失敗例を知ることで、
ビジネスでデザイン思考を活用するためには何をすればいいのかがわかります。
知識をインプットしたうえで、デザイン思考が自分のビジネスにどう貢献できるかを
具体的に考えるワークショップを実施し、デザイン思考の有効性に気づき、
現場で使うマインドを醸成します。
②デザイン思考を身につける
消費者の行動やその理由、感情的なニーズを書き出し、
デザイン思考の最初のフェーズである、「観察」を体感します。
その後、ブレインストーミングの正しい進め方や親和図法というグループ発想技法について学び、「観察」に続く「発想」のフェーズで、選択可能なアイデアをできる限り押し広げる手法を身につけます。
最後に、素早く安くかたちにし、消費者から有益なフィードバックを引き出す、
「プロトタイピング」のフェーズについて知ることで、デザイン思考から発生する
プロジェクト進行から、顧客課題を解決するアプローチを習得します。
③リーンスタートアップの基本
リーンスタートアップがどのような手法かを学び、
実際の成功例や失敗例から自社との関連性を体感します。
また、リーンスタートアップがプロジェクトチームにとってどのように役立つかを考える
ワークを通じて、活用できるチームづくりのスキルを習得します。
④アジャイルの基本
アジャイルについて学び、実際の成功例や失敗例から、デザイン思考で見つけた
顧客課題の解決に、アジャイル思考を取り入れることが有効だと理解します。
アジャイル思考がどのように役立てるかを考えるワークでは、アジャイル思考を活用する
マインドを醸成するだけでなく、実際に現場で使えるよう練習し、背中を押します。