大和総研が2019年1月に発表した「介護離職の現状と課題」によると、
介護・看護のために離職した人の数は、2017年の時点でおよそ9万人でした。
これは、2007年と比較して約2倍の数字です。
団塊世代が70代となり、今後も要介護者は増えることが予想されます。
介護をしている方の多くは40代~50代と言われており、
知識やスキル、経験の豊富なベテラン社員が、介護を理由に職場を離れてしまうことは、
会社側にとっても大きな損失です。
介護離職を防止するために会社ができることには、どんなことがあるのでしょうか。
介護は自立支援
自立という言葉は、「他者への従属から離れて独り立ちすること」
という意味で使われます。
そして、要介護者の生活には他者からの支援が必要不可欠です。
自立という言葉を文字通り受け取ると、要介護者は自立できないことに
なってしまいます。
ですがよく考えてみると、要介護者ではない人でも他者からの支援は
欠かせませんよね。
私個人としても『誰かの助けがなくてもひとりで生きていける』とは
口が裂けても言えません。
介護の分野において「自立支援」とは
『要介護者が日常生活において必要な動作を可能な限り自分でおこなうこと』
と言われています。
少し異なる視点ですが、私が考える「自立している」というのは
「助けを求める先が複数あり、ただ1つだけの依存先にのみ
従属している状態ではないこと」です。
ですので、介護における自立支援とは、助けを求める先を複数に
増やしていくための支援と考えていただけるといいのではないでしょうか。
私はある日突然父親が脳卒中で倒れた際、もし介護が必要になったら
自分がやってあげたい(やらなくてはいけない)と考えました。
ですがそれは、父親からすれば、私がいなければ生きていけないという、
私への従属関係を強制されることです。
そうではなく、相談できる相手や支援してくれる人を複数見つけることが、
父親にとっても私にとっても自立することにつながると、
当時相談したケアマネジャーに教えてもらいました。
ビジネスパーソンにとって最も身近な存在のひとつが、働いている会社です。
その会社が、社員にとって気軽な相談相手であり、かつ自立を支援できる
存在であることが、介護と仕事の両立を促す大きな一歩になるのではと思っています。
介護離職を選んではいけない3つの理由
介護離職は、人材を失う企業側だけでなく、退職した本人にとってもマイナスに
なってしまうことが多々あります。
十分に考えることなく介護離職を選んではいけない理由は3つです。
①再就職が困難
②再就職できたとしても年収が激減する
③介護離職がかえって経済的・肉体的・精神的な負担を増やしてしまう
それぞれを簡単にご紹介します。
①再就職が困難
介護を理由に退職される方の多くは40代以上です。
そして、介護期間中働けないことで、職歴に空白ができます。
②再就職できたとしても年収が激減する
結果として年収が大きく下がる実態が報告されています。
③介護離職がかえって経済的・肉体的・精神的な負担を増やしてしまう
介護離職をすることで、経済的は収入がなくなり、自分で介護をすることで
肉体的にも負担が増え、結果精神的にも余裕がなくなる実態が報告されています。
介護は突然やってくる
私の父親のときがまさにそうでしたが、介護はある日突然目の前に現れます。
介護は通常、自分自身が要介護者としての経験がありません。
育児であれば自分の子ども時代を多少なりとも思い起こすことができますが、
介護ではそれができないため、いつ何をしなくてはいけないのかほとんど
把握できていませんでした。
調べるといっても、そんな状態で急に自分の身に降りかかってきたので、
何から調べていいのかもわかりませんでした。
そうすると、どんどん頭が回らなくなりになり、視野が狭くなります。
そして、自分の親は自分が介護をしなくてはいけない、と思い込んでいき、
介護離職の選択をしやすい状況に陥っていました。
そんな時に何より助かった存在が、信頼できる相談相手でした。
介護離職をさせないために会社ができることとは
介護離職を防ぐことは、自社のノウハウを習得しているベテラン人材に
活躍し続けてほしい企業にとっても、まだまだ働きたい本人にとっても
win-winな結果につながると思います。
まずしなくてはいけない打ち手は、介護に関する情報提供だと考えます。
先ほど挙げたような介護離職に対する実態やお金の情報、介護休業などの制度、
介護保険を活用できるサービスや手続き方法など、介護が必要になる前に
情報提供できる仕組みがあることが、何よりの助けとなり得ます。
介護に対して相談しやすい雰囲気を醸成しておくことも重要です。
自分が介護の当事者であることをカミングアウトすることには勇気が必要です。
心理的安全性のある組織を常日頃から作り、何かあればすぐに相談しよう、
と思ってもらえるようにします。
介護を理由に退職される方の中には退職願に「一身上の都合」とだけ書いて、
会社には介護のことをカミングアウトしないケースもよく耳にします。
他には、サテライトオフィスや在宅勤務、フレックスタイム制など、
多様な働き方に柔軟に対応できる制度の整備も重要です。
介護は長期戦です。
介護休業や介護休暇はできる限り分割して取得できるようにすることをおすすめします。
まとめて使うことしか選択肢にないと、使い切ったら退職、となりがちです。
弊社では、介護と仕事の両立を促すためのセミナーや研修で、
相談しやすい雰囲気づくりに協力する機会をいただくことがあります。