「要は」「つまり」
「まとめると」「分解すると」
「なぜなら」
「具体的にいうと」「言い換えると」
「違う切り口だと」「視点を変えると」
こんな言葉を巧みに使って、ビジネスで上手にコミュニケーションを取っている人が、
あなたの周りにもいるのではないでしょうか。
2022年現在、第4次産業革命の真っただ中といわれ、これからIoTやAIがどんどん普及していきます。
電話はあらゆることができるスマホに変わり、時計は時間以外を測定できるようになり、本や音楽は電子データで大量に所有でき、ゲームは世界中の人とリアルタイムで遊べるようになるなど、身の回りの「当たり前」があっという間に通用しなくなる時代です。
そんな時代を生き残るために、ビジネスパーソンにはどんなスキルが必要なのでしょうか。
上述のような言葉を使い、上手にコミュニケーションを取るスキルはもちろん必要です。
ですが、そんなコミュニケーションを取れるようになるためには、
“考える力”がなくてはいけません。
今回のコラムのテーマは、AIやロボットに取って代わられないビジネスパーソンになる
ために必要な“考える力”、「コンセプチュアルスキル」です。
コンセプチュアルスキルとは、正解のない問題に直面したときに、問題の本質を見極め、
周囲が納得できる最適解を導き出す能力のことです。
このコラムでは、コンセプチュアルスキルの概要をご紹介し、身につけるメリット、
身につけさせるための具体的な研修事例を解説します。
コンセプチュアルスキルについて知らない方や、研修を検討している人事部門や教育担当者の方は、ぜひご参考にしてください。
コンセプチュアルスキルとは 〜ものごとの本質を見極める力〜
「コンセプチュアルスキル」とは「概念化能力」とも呼ばれます。
概念化とは、多くの知識や情報を整理分解し、複雑な事象に共通する点を見抜き、
目に見えない概念として捉えなおすことを指します。
たとえば、あなたは営業です。日々、がむしゃらに活動しています。
毎月30件の商談をおこない、成約するのは3件だけです。
そんなとき、できる営業パーソンは「売れたときの共通点はなんだろう?」「失敗したときに共通の原因はなんだろう?」と考え、共通点を見出し、法則を導き出します。
そうすることで、営業効率がどんどん上がっていくのです。
このように、コンセプチュアルスキルを磨き、物事の本質を見極めることができるように
なると、個人や組織の可能性を最大限まで高めることができるといわれています。
コンセプチュアルスキルはいまや全員に求められる
コンセプチュアルスキルは、長らくトップマネジメント層に特に必要とされるスキルと
いわれてきました。
コンセプチュアルスキルを提唱したのは、ハーバード大学の経営学者、
ロバート・L・カッツ氏です。
カッツ氏は、どの階層ではどの能力が重要になるのか、スキルバランスを「カッツモデル」(下図)によって整理しました。

カッツモデルによると、マネジメント層には3つの能力が必要とされています。
・コンセプチュアルスキル(概念化能力)
・ヒューマンスキル(対人関係能力)
・テクニカルスキル(業務遂行能力)
コンセプチュアルスキルはこれまで説明したとおりです。
ヒューマンスキルは、コミュニケーションやファシリテーション、コーチングや
ティーチング、ネゴシエーションやプレゼンテーションなど、言葉どおり“対人関係”に
関するスキルです。
テクニカルスキルは、商品やサービスに関する高度な知識、技術に関する高度な知識、
製造・加工技術、基本的なITスキルなどです。
技術者など現場で働く社員や、その現場を管理・監督するマネジャーが、
業務を正確に遂行するためのスキルといえます。
くわえてカッツモデルでは、マネジメント層も3つに分けています。
・トップマネジメント
・ミドルマネジメント
・ローワーマネジメント
トップマネジメントは経営層です。
ミドルマネジメントは、課長や部長のように、自分が任されている部門・部署を
広く管理するマネジャーです。
そしてローワーマネジメントは、チームリーダーや主任のように、
現場を管理・監督する方たちです。
このカッツモデルでは、トップマネジメントに近づけば近づくほど、
コンセプチュアルスキルが必要とされています。
ですが、今はVUCAの時代で、先行きが不透明で将来の予測ができません。
「これまでと同じようにやっておけば大丈夫」といえるものはありません。
ですので、組織活動をより柔軟に、スピーディにするために、
社員一人ひとりの主体性が求められています。
経済学者のピーター・ドラッカー氏は、カッツモデルをもとに「ドラッカーモデル」を提唱しました。
ドラッカーモデルでは、コンセプチュアルスキルは、トップマネジメントからローワーマネジメント、さらにはその下の一般社員層にまで等しく必要な能力とされています。
今やコンセプチュアルスキルは、すべてのビジネスパーソンに求められる能力なのです。
コンセプチュアルスキルを構成する10の具体的な要素
コンセプチュアルスキルは以下のような要素で構成されています。
コンセプチュアルスキルを発揮してものごとの本質を見極め、個人や組織の可能性を最大限まで高めるためには、複数の思考法や能力が必要です。
ロジカルシンキング(論理的思考)
ロジカルシンキングとは、ある枠組みに従い、情報を整理したり、分析したりしながら、
筋道を立てて結論を導き出そうとする思考法のことです。
目的を明確にし、情報を分けて整理し、目的と手段を「なぜなら」でつなげることができます。
詳しくは、ロジカルシンキング のコラムやロジカルコミュニケーション のコラムをご覧ください。
ラテラルシンキング(水平思考)
ラテラルシンキングとは、物事の見方の「角度」を変えることで、発想の枠を広げ、
さまざまな視点から自由に発想しようとする思考法です。
こちらのラテラルシンキング のコラムで具体的に知っていただけます。
クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキングとは、「それは正しいのか?」という批判的視点を持って考える
思考法です。
仕事で「その選択肢は最初から除外していました」とか「そんな条件があるとは知りませんでした」といったやりとりを目にした事がある人は少なくないと思います。
前提や論点、結論と根拠のつながりを、あえて疑うことでより良い結果に導くことができます。
詳しくは、クリティカルシンキング のコラムをご覧ください。
多面的視野
多面的視野とは、ひとつの課題に対して複数の視点(別の部署や異なる役職、消費者など)でアプローチし、検討をおこなう思考法です。
多面的視野があると、行き詰ったときに視点を転換し、異なる角度からの解決策などを導き出すことができたり、複数のアプローチをおこなうことでリスクヘッジができるようになります。
俯瞰力
俯瞰力とは、物事の全体像を把握するスキルです。自分や自社が置かれている状況や周囲の状況、今後の見通しなどを広い視野でとらえます。
また、進行中のプロジェクトや業務が、全体のプロセスにおいてどの位置にあるか把握することができるようにもなります。
柔軟性
柔軟性とは、目の前で発生した事態に対して臨機応変に対応する能力です。
プロジェクトや業務など、あらゆる企業活動において想定外な事態は必ず発生します。
想定外の事態であっても、冷静に、そのときの状況に応じた判断をしなくてはいけません。
また、社会情勢や消費者ニーズの変化も早く、臨機応変に対応することも求められます。
知的好奇心
知的好奇心とは、ものごとに対して興味や関心を抱き、もっと深く知りたい、深く調べたいという欲求や気持ちをもつ姿勢です。
新しいことを拒絶せず、受け入れることができるようになります。
受容性
受容性とは、自分とは異なる意見や未知の価値観を受け入れる能力です。
近年、ダイバーシティ&インクルージョン推進がこれまで以上に叫ばれ、
多様性が重視されています。
一方的に自分の成功体験や意見を押し付けず、さまざまな意見を公正に比べることで、
より良い解決策を見つけ出すことができるようになります。
チャレンジ精神
「自信がない」「向いてない」「想像できない」と簡単にあきらめず、積極的にチャレンジする能力です。
積極的にチャレンジすることは、自分の成長だけでなく、周囲への影響力を高めることにもつながります。
会社や組織に変化を求めるだけでなく、自分から変化を起こしていくことは、
これからの時代、ビジネスパーソンとして生き残るために必須といえます。
先見性
目の前のことだけでなく、数年後、数十年後のニーズを予測する能力です。
未来を描き、そこから今を見ることで、これまでとは違った景色が見えてきます。
また、人や社会に役立ち、ワクワクするような未来を描くことは、事業を改革し、
社員を惹きつけることにもつながります。
コンセプチュアルスキルスキルを身につける3つのメリット
コンセプチュアルスキルを高めると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
以下で具体的に解説します。
課題を本質的に解決できる
コンセプチュアルスキルが高い人は、発生する課題に対して、本質をとらえ適切に対処できます。モグラたたきのような、その場をしのぐための“点”の解決策だけでは、現場は疲弊し、組織は成長できません。
コンセプチュアルスキルが高い人は、情報と情報との関連性を見つけ、法則を見つけだそうとします。
たとえば、部下が思うように動いてくれないことに悩むマネジャーがいたとき、部下のせいにして「あいつはダメだ」と攻めることは簡単です。
ですが、「自部署のルールやマニュアルが合っていないのでは」「動かないようにしている根本的な理由があるのでは」などと考えることで、“動いてくれない”法則性に気づき、
根本的な問題解決につなげることができます。
組織に新しいアイデアをもたらす
オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏によると、イノベーションとは「既存のものと既存のものの新結合により、新たな価値をもたらす」ことといわれています。
たとえば、
・バケツと“折りたたむ”を合わせた折りたたみバケツ
・地域の名産品とドラえもんを合わせたご当地ドラえもんシリーズ
・電話とインターネットとi-Podを合わせたi-Phone
などが挙げられます。
コンセプチュアルスキルを高めることで、
「要は」
「言い換えると」
「視点を変えると」
などと、ものごとの本質を他者に分かりやすく伝えることができるようになります。
そうすると、他部署や他分野の人と意見交流しやすくなり、これまでにない新たな発想を
生み出すことが期待できます。
ビジョンが浸透し、組織のパフォーマンスが上がる
コンセプチュアルスキルが高い人は、組織や組織を取り巻く環境を含めた全体像を把握できます。
そうすると、「この仕事をなぜおこなうのか」、「自社や自部署、自分の目的・目標は何なのか」といった、
自社が成し遂げたいことや、仕事の意義や意味を各社員が正しく理解できるようになり、
結果としてビジョンや組織目標が浸透します。
また、高い思考力を持ち、知的好奇心や受容性、チャレンジ精神に優れた社員が増えることで、組織のパフォーマンスが上がることも期待できます。
コンセプチュアルスキルを高める人材育成とは
ここまでコンセプチュアルスキルの概要や構成要素、メリットについて解説してきました。
前述のとおり、コンセプチュアルスキルは、今やマネジメント層だけでなく、すべての社員に求められています。“地頭がいい”社員が組織内に増えることは、大きなアドバンテージにつながります。
では、社員のコンセプチュアルスキルを高めるためには、どうしたらいいのでしょうか。
①コンセプチュアルスキルに対する理解を促進する
コンセプチュアルスキルは、イメージしづらいスキルです。
コンセプチュアルスキルと言われて、パッとどんなスキルか答えられる人はまずいません。
また、コンセプチュアルスキルが高い人は、本質を見抜き合理的な判断を好みます。
さらに、発想が自由であることもあり、周囲から“変わった人”と評価されることもしばしばあります。
ですので、コンセプチュアルスキルが高い人を育成したいときには、まず理解を促進しなくてはいけません。
スキルマップを活用したり、気軽に見られる動画学習を活用するなどの手法が一般的です。
場合によっては、マネジメント層に向けて、コンセプチュアルスキルへの理解を深める研修を実施することもあります。
②OFF-JTをおこなう
コンセプチュアルスキルは思考法や心構えに関する内容が多く、現場での実務経験のみで
習得することは困難です。
対面でもオンラインでもいいので、集合研修の場で実践的な練習をすることをおすすめします。
その際、受講者は階層や職種ごとなどで分け、コンセプチュアルスキルのなかでも特に
どれに重点を置いて研修で取り上げるのか、あらかじめ決めておくことが重要です。
また、次世代リーダー育成のように、特に活躍が期待される人材に向けて、
コンセプチュアルスキルを習得する研修をおこなう企業もあります。
③現場で実践する
コンセプチュアルスキルについて理解が浸透し、現場で実践するイメージが持てたら、
実際に使ってみます。
たとえば、
・仕事の目的を伝える/考える
・これまで以上に幅広く情報を集め、統合する
・問題が発生したら「なぜ?」「どうして?」の問いを繰り返し、深掘りする
などのアクションが挙げられます。
そのときに重要なことは、実際にコンセプチュアルスキルを高めようと、発言や行動を
変える人を受け入れる雰囲気があるかどうかです。
いきなり現場で実践させようとせず、前述した動画学習や集合研修を活用して、
あらかじめそのような雰囲気をつくっておきましょう。
コンセプチュアルスキル研修事例紹介
ここからは、弊社で実際に実施したコンセプチュアルスキル研修の事例をご紹介します。
集合研修は合計4日間で、インターバル期間や研修後の取り組み期間を含めて約4か月に
わたって実施した、超実践型の研修です。
【研修事例】
テーマ:
コンセプチュアルスキル
ねらい:
・昇格者に期待されるコンセプチュアルスキルを学び、現場で使える実践スキルを習得する
内容:
① DAY1
昇格後の役割期待や、求められるリーダー像を学び、コンセプチュアルスキルの習得が
求められていることを理解します。
また、なぜ、みずからがリーダーとして問題解決に挑戦する必要性があるのか納得する過程を通じ、研修参加へのレディネスを醸成します。
その後、コンセプチュアルスキルについて詳しく学びます。
② DAY2~インターバル期間(2か月)
問題解決の手法について学び、インターバル期間での取り組みテーマを決めます。
さらに、取り組みテーマについて深掘りして考え、解決のために巻き込むメンバーも決め、実践イメージを固めていきます。
インターバル期間にどのように相互チェックをしながら実践するか確認し、アクション
プランシートを作成して、インターバル期間で実際に職場の問題解決に取り組みます。
③ DAY3
インターバル期間での取り組みに対する振り返りをおこないます。
その前に、自社の社長など経営層から講話をいただき、企業としてコンセプチュアルスキルを習得することを応援しているメッセージを発信し、研修参加への意欲を再燃させます。
振り返りでは、相互フィードバックやトレーナーからの厳しいフィードバックなどを通じて、さらに良くするためにどうするのかを具体的に議論します。
また、あらためて多面的視野の重要性を学び、ワークを通じて練習します。
④ DAY4
取り組みをこれまで以上に推進するためのスキルとして、メンバーの巻き込み方、
問いの立て方、概念化して問題を再構築する方法、問題解決に向けた分析方法をそれぞれ
習得し、アクションプランを再作成し、研修後の取り組みを具体化します。
⑤ 研修後の取り組み(2か月)
研修後、アクションプランにしたがって現場で2か月程度実践をおこないます。
上司やほかの受講者に対して取り組み報告をおこないながら実践し、問題解決を着地させます。
一連の問題解決を通じて、コンセプチュアルスキルを身につけることができます。
弊社では、個社ごとに完全オーダーメイドで研修をご提案しております。
パートナーとして協力いただいている外部トレーナーが400名以上おり、
個社ごとに合った研修をプロデュースしております。
コンセプチュアルスキル研修のバリエーションも豊富です。
本記事を参考に、是非自社の目的や課題に合った研修を実施してみてはいかがでしょうか。