「TEAL組織」のベース理論となった成人発達理論
人事や人材育成に携わる方は、「成人発達理論」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ここ数年で注目されているキーワードのひとつです。
そのきっかけとなったのは、元戦略コンサルタントのフレデリック・ラルーによる「TEAL組織」です。
2018年に発売され、10万部以上も売れた書籍で、多くの皆さんが読まれているかと思います。
「TEAL組織」は、そのタイトルの通り、組織の形態について書かれた書籍です。
いままでにない新たな形態を体現している組織を題材に、組織の発達段階を解説しています。
組織の発達段階を、その特徴とあわせてわかりやすくカラーで表しています。
具体的には7段階で、無色から、マゼンダ、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールと表現しています。
無色:血縁関係の小集団で自己と他者の区別は曖昧。家族のような集団。
マゼンタ:数百人で構成される部族。自分と他者の区別はあるが、世界の中心は自分。
レッド:自他の区分があり、力や恐怖によって統率された集団。
アンバー:規則や規律、制度によって統率された組織。階層構造も明確。
オレンジ:科学技術や論理性、効率を基盤とした組織。
グリーン:多様性と平等によるコミュニティ型組織。
ティール:生命体型組織。全体性、存在目的を重視しながらも自己のセルフマネジメントも確立された組織。
ティールとは、トップからの指示命令ではなく、個々のメンバーが組織全体の目的を理解しながら、個々の判断で主導的に活動する組織です。
マネジャーの指示命令がなくても、メンバー一人ひとりがコミュニケーションしながら自律的自発的に行動できる組織なのです。
ある意味、理想的な組織だと言えるでしょう。
皆さまの組織、会社は、何色にあたるでしょうか?
上からの命令が絶対のトップダウン型でノルマに縛られたアンバーか、それとも
KPIを明確にし、目標管理による効率的な経営のオレンジでしょうか?
現代の営利組織においては、ティールはおろかグリーンでもなかなか難しいのではないでしょうか、「TEAL組織」では、ティールを体現している、稀な組織を紹介しています。
成人発達理論とは?
この組織の発達段階のベースとなっている考え方が、「成人発達理論」です。
マゼンタやレッドなど、色で示された発達段階の部分ですね。
もともとは、人の意識の発達段階を表した考え方で、ドン・ベック博士のスパイラルダイナミクス理論(ドン・ベック)と言われるものです。
スパイラルダイナミクス理論でも、人の意識の成長段階を、下記のように色で表しています。
ベージュ:古代的、生存の感覚、本能と生まれ持った感覚を研ぎ澄ます。
パープル:呪術的、血族の精神、神秘で包まれた世界で調和と安全を求める。
レッド:呪術・神話的、力のある神々、衝動を表現、自由、強い存在になる。
ブルー:神話的、真理の力、目的を見つけ出す、秩序を生み出す、未来を確実なものにする。
オレンジ:合理的、努力への意欲、分析し、戦略を立て、繁栄する。
グリーン:多元的、人間らしい絆、内なる事故を探求、他者を平等に扱う。
イエロー/ティール:統合的、しなやかな流れ、複数のシステムを統合し調整。
ターコイズ:全体的、全体の眺め、シナジーを起こす、巨視的な視野からのマネジメント。
さらには、インディゴ、バイオレット、ウルトラバイオレット、クリアライトと続きますが精神世界的な要素が高まるためここでは割愛します。
「TEAL組織」で紹介された組織の発達段階の色分けとほぼ同じ内容で、人の意識段階を示しています。
このスパイラルダイナミクス理論をベースに、組織の発達段階を解説したのが「TEAL組織」であり、そこから、成人発達理論が注目されるようになりました。
成人発達理論は、スパイラルダイナミクス理論だけではありません。
その他にも、ハーバード大学教育大学院のロバート・キーガンによる意識の発達段階や、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論、ほかにも、ビル・トーバート、スザンヌ・クック・グロイターなど、さまざまな心理学者、教育学者、発達論者が、それぞれの研究による人の意識の発達段階を示しています。
ロバート・キーガンの意味構築の発達段階
①具体的思考段階
無意識の反応、幼児、抽象的な思考はできない、世界と自分は同一
②道具主義的段階
自分の欲求や願望に支配されており、自分の世界観だけに照らし合わせて他者と関係を持つ。
③社会順応・他者依存段階
物理的な他者、あるいは外部環境よって、自己が定義されている。
④自己主導段階
自分独自の価値体系を持っている。
⑤自己変容・相互発達段階
自分の視点の限界を指摘してくれる信頼できる他者と非常に深いレベルで関係性を結ぶことができる。
どの理論にも言えることは、人の意識は変化していくということです。
人の意識には、それぞれの発達段階があるのです。
置かれた環境や経験によって、徐々に人の意識は変化≒成長していきます。
その段階を表した考え方が、成人発達理論なのです。
さらに、これらの理論を統合して捉え、ひとつの考え方としてまとめたものが、ケン・ウィルバーによる「インテグラル理論」です。
この「インテグラル理論」が、2019年の再販されたことで、より成人発達理論への注目が集まったことは間違いありません。
21世紀を代表する思想家、ケン・ウィルバー
ケン・ウィルバーは、21世紀を代表する思想家と言われています。
前述のロバート・キーガンとも交流があります。
ケン・ウィルバーの「インテグラル理論」をもとに、成人発達理論について考えていきましょう。
人材育成や組織開発の文脈において、成人発達理論が注目されるのは何故でしょう?
組織のメンバーの意識段階、組織全体の成長段階によって、組織のあり方が大きく変わってくることがその理由となります。
人の成長や組織の発達を考える上で、成人発達理論はひとつの指針、地図になるのです。
ケン・ウィルバーも、「インテグラル理論」で示していることは、人類の地図だと言っています。
地図を持つことで、自分の現在地を把握することができます。自分がどの発達段階にいるのかを推測できるのです。
大前提として、発達すること、上位の発達段階に到達することが、正しいこと、「善」であるということではありません。
良い悪いではないのです。
つまり、ティール段階だから、偉いとか優れているということではないのです。
ティールだから、幸せだということでもありません。それぞれの段階によって、幸せの定義や価値観も異なってくるのです。
また、発達は無理矢理に促進されるものでもありません。
時間をかけながら、経験と洞察を繰り返す中で、徐々に進んでいくものなのです。
発達は、「超えて含む」と言われています。
前の段階を超えながらも含んでいる、包括しているということです。
つまり、オレンジ段階で、合理性を重視する意識段階にいるとしても、その内部には、パープルやレッドの呪術的、暴力的な側面も内包されているということです。
状況によっては、パープルやレッドの側面が表面に表れてくることもあるでしょう。
論理的で合理的な判断をする人が、恋愛においては占いを信じていたり、おまじないを重要視していたりすることもありますね。
人は、前の成長段階を内包しながら、徐々に紆余曲折しながら、時には後退することもありながら、成長していくのです。
発達を無理矢理促進することはできませんが、発達理論を知ることで、意識の現在地を把握すると、自分や組織が客観的に見えてきます。
自分を知る、組織を知るということは、人材育成や組織開発において重要です。
また、発達とは、「自己中心の減少」とも言われています。
自己の捉え方が、発達段階において異なっており、自己中心性が発達することで減少していくのです。
キーガンの発達モデルを見ても分かるように、第2段階の道具主義的段階では、自己がすべて中心であり、他者を道具としてみる傾向があります。
それが、第3段階になることで、社会順応・他者依存段階となります。
自己の存在を他者からの評価に委ねてしまうのです。
さらに、第4段階は、自己主導段階では、確固した自分自身の価値観を持ちながらも、他者と交流することができます。
自己の位置づけが変化し、自己中心性が減少していることが分かるでしょうか。
この考え方は、キーガンの「主体客体理論」とも呼ばれています。
成人発達理論が注目されるようになった本当の理由
ここまで、お読みいただいてお気づきになる方もいるかも知れません。
人類自体が、個の成長段階を経ているのです。
原始時代から弥生時代、大和朝廷の時代は、ベージュやパーブル、レッドの段階だったでしょう。
血縁関係や卑弥呼のような呪術や豪族による暴力が中心の社会でした。
その後、徐々に秩序が生まれ、権力で支配する時代がやってきます。
ブルーの時代です。
世界では産業革命、日本では明治維新によって、急速に近代化が進み、オレンジの時代へと突入していきます。
いま現在も、オレンジの要素が濃いかも知れません。
金融経済は合理性の上に成り立っています。経済中心の社会は、まさにオレンジの社会です。
しかし、SDGSの高まりや多様性を認めあう動きが世界各国で生まれています。
グリーンの時代になりつつあるのです。
だからこそ、客観的に自分達を把握することが必要になり、成人発達理論が注目されるようになったのではないでしょうか。自己中心性が減少し、グリーンの多様性が重視される時代になってきているからこそ、時代が成人発達理論を必要とし始めているのです。