今回は、コミュニケーションの中でも「傾聴」にスポットライトを当てて、
対人関係に役立つ傾聴のマインドとスキルをご紹介します。
傾聴とは、「深いレベルで、相手をよく理解し、気持ちを汲み取り、共感する」聴き方です。
傾聴ができる人は、良好な人間関係を築くことができるようになります。
また、対人関係のコミュニケーションでは、傾聴のスキルを身につけるだけでなく、
そのスキルを使う人がどのようなマインドでいるかが重要です。
マインドが土台にあってこそ最大限にスキルを活かすことができます。
傾聴が活用されている場面とは
上司と部下とのコミュニケーションの取り方の一つとして、傾聴力が必要とされる、
1on1ミーティングに注目が集まっています。
その名の通り、上司と部下で行う定期的な1対1のミーティングです。
ただ、評価や管理のための人事面談とは異なり、部下の成長をサポートするための時間が1on1です。
「日本の人事部 人事白書2020」によると、1on1ミーティングを導入している企業は、
従業員規模に関わらず約40%前後となっており、その約95%の企業が
1on1ミーティングを継続する意向を示しています。
1on1ミーティングに期待する効果としては、
部下のモチベーション向上や円滑なコミュニケーション、
信頼関係の強化などが多く聞かれます。
繰り返しになりますが、その1on1ミーティングを成功させる要因として
最も必要なことが、「上司の傾聴力」です。
傾聴に必要なマインドとは
部下に対して傾聴をすることで期待される効果は以下の3つです。
・心理的安全性の実現
・とらわれへの気づき
・自己決定によるコミット
つまり傾聴をすることで、「上司や会社が解決してくれないんだ」という
部下の他責の考えを自責に変えて、主語が「私」に変わり
課題解決や目標達成に向かえるようにすることにつながります。
部下との信頼関係を築くためには、
・受容的態度
・共感的態度
・肯定的態度
が必要ですが、部下への受容や歩み寄りだけに注目すると、
自己犠牲の考えを持つようになりがちです。
そこで必要なマインドセットが「自己受容」です。
他者だけでなく自分自身の受容やつながりを大切にすることが大切です。
似た言葉に「自己肯定」がありますが、こちらは自分の弱い部分を見ないようにして、
自分は今のままでいいんだと納得させるようなやり方なので、
他者に対して競合的に接しがちです。
「自己受容」は自分の欠点や弱点も含めて自分を受け入れることですので、
他者とリラックスしたよい関係を築くことができるようになります。
傾聴に必要なスキル
傾聴を上手におこなうためには、マインドだけでなく、スキルも必要です。
ここでは、傾聴に必要な具体的なスキルを5つに分けて、簡単に紹介します。
~面談前に目的を確認する~
最初に面談の目的をしっかり確認することで、上司と部下の間で認識のずれが生じず、
面談がスムーズに始められます。
~ささいなことでも感謝を伝える~
感謝を伝えることは、部下に話そうという勇気を与えることにつながります。
自分の本音を話すことには少なからずエネルギーが必要です。
時間通りに面談に来てくれてありがとう、といったように、
「当たり前」と感じることであっても感謝を伝えることが、
部下から本音を引き出すことにつながります。
~聴く姿勢・態度に気を付ける~
対面であれば真正面に座るよりも90度になるような位置に座った方が、
圧迫感を与えないといわれています。
また、腕組みなどはせず、やや前かがみ気味にすると、
積極的に話を聴いていることが伝わりやすくなります。
そして、体ごと相手に向けて視線も相手に向けます。
オンライン面談の場合は特に当てはまりますが、あいづちを打ったり、
大きくゆっくりうなずいたりすることも重要です。
~相手の本音を聞き出すやり取り~
話を聴いて何度も出てくる言葉や、感情を表す言葉を「伝え返す」ことや、
話の先をうながすような聞き方で「それで?」などの言葉を使うことで、
部下が自分を深く考えることにつながります。話を要約したり、
タイミングよくオープンクエスチョンをしたりすることも有効です。
沈黙する時間が続くこともありますが、次の言葉を待ちつづけることも
場合によっては必要です。
傾聴は鏡をみせるようなことだともいわれます。
自分を深く考えてもらえるように誘導することが重要です。
~課題を分解して協力と目標を一致させる~
部下からの話を聴きながら、話している課題は誰の課題で、
だれが責任を引き受けるのか、という視点で観察し、
課題を分離することで自分と他者を分けて考えられるようにします。
そうすると、自分の責任の範囲での目標を自分で決めてもらえるようになります。
同時に協力できることを確認することで、よい関係を構築していきます。
傾聴によって引き起こされる心理的安全性
1on1のように、部下との関係構築研修を設計する際に、
アドラー心理学の考えを取り入れることがあります。
アドラー心理学の考えでは、勇気づけが大切とされています。
「人の悩みは全て対人関係の悩みであり、人生で悩むのは勇気を失っているからだ」
という明確な考えがあります。
よって、アドラー心理学を取り入れた1on1では管理職が自分自身と部下の
「勇気づけ」をおこない、部下の自信と心理的安全性を醸成し、
新たな挑戦意欲を高めることをねらいとしています。
心理的安全性とは、安心して本来の自分をさらけ出せる、というような意味です。
2012年に発表されたプロジェクト・アリストテレスというGoogle社の調査で、
「チーム生産性向上の5つの柱」が発表され、その1つに「心理的安全性」が
挙げられたことで有名になった言葉です。
自分と向き合い、自分も他者も大切に出来るようになることで、
傾聴力が高まり心理的安全性が生まれます。
心理的安全性が高い場を作り、部下からの本音を聞き出すことは、
生産性の高いチーム作りに必要不可欠です。
部下との信頼関係構築のための傾聴力を身に付ける研修事例紹介
最後に、実践的なカリキュラムで傾聴に必要なマインドとスキルを
身に付けることができる研修事例をご紹介します。
ご紹介するのは、その中でも1on1ミーティングを成功させるために設計した研修です。
1)【1on1の効果と背景】
注目されている1on1とは何か?必要とされるのはどのような背景があるのか?
そして期待される効果はなにか?を事例を交え手学び、理解を深めていきます。
1on1の意味を理解し、部下だけでなく自身にも有益な手法であると理解します。
2)【1on1の基本的な考え方】
1on1の実践における心構えと具体的な方法を学びます。
まず、良い1on1と悪い1on1の特徴と違いを理解します。
そして、良い1on1を実践するために、
5つの基本マインド・5つの基本スキル・5つの基本メソッドを学習します。
3)【実践演習】
受講者同士ペアになって傾聴スキル、勇気づけスキルを実際に使いながら
トレーニングします。
自分自身の癖やトレーニング相手の得意な部分など様々な気づきを言語化します。
スキル例)あいづち、オウム返し、トラッキング、リフレーミング、課題の分離、結末を体験させる
4)【フィードバック】
5段階のフィードバックやyouメッセージとIメッセージを学びます。
伝えたことが伝わったことではないことを理解し、
言語・非言語のコミュニケーションスキルを磨きます。
スキル例)ドアノック(許可を取る)、事実言葉と意見言葉、I メッセージ、フィードフォワード、提案のフィードバック
5)【1on1実践に向けた準備】
本日のロールプレイングを踏まえ、自分自身の癖を認識し、
部下との1on1の際にどのような部分に気をつけるのかを目標シートに記載します。
また、中長期的に部下とどのような関係性を構築するかといった目標を
3ヶ月、半年、1年ごとに設計します。