“ヒューマンスキル”という言葉を、耳にすることは多いのではないでしょうか。
ですが、ヒューマンスキルとは何か、を説明できる方はなかなかいらっしゃいません。
管理職にとって、重要なスキルであるヒューマンスキル。
・部下を育成する視点をもってコミュニケーションすることができない
・プレイヤーとしては優秀だが自分のペースで仕事を進め、周りと協働することが苦手
・組織のビジョンや自分の考えをうまく伝えられず、周囲のやる気を高めることができない
・組織で進める仕事の問題点をみつけられず、前例踏襲するだけになっている
など、ヒューマンスキルに基づく課題は、挙げればきりがないくらいたくさんあります。
ヒューマンスキルは、
特にミドルマネジメントである中間管理職にもっとも求められるスキルといわれています。
なぜなら、課長を代表とする中間管理職は、経営層の方針をもとにメンバーをまとめ、
関係者全員の力を結集して成果を上げることを求められているからです。
言い換えると、管理職は、突然配属された部署だろうが、付き合いたくない人がいようが、『他者を動かして』成果をあげなくてはいけないということです。
このコラムでは、管理職に必要なスキルのなかのうち“ヒューマンスキル”に焦点を絞って、その必要性や構成要素、高め方をご紹介します。
なぜ今、ヒューマンスキルが注目を集めているのか
組織の一員として仕事をおこなっていれば、
かならず誰かとコミュニケーションを取る必要が生じます。
ですので、ヒューマンスキルは以前から重要なスキルとみなされてきました。
そして令和に入り、管理職のヒューマンスキルの重要性がさらに増しています。
理由は大きく2つです。
ひとつは、急激なビジネス環境の変化に対応しなくてはいけないから。
そしてもう一つの理由は、ダイバーシティ&インクルージョンが進んでいるからです。
【急激なビジネス環境の変化】
現代はVUCAの時代といわれ、
先を見通すことが難しく、また変化も早く、急なことが特徴です。
シェアド・リーダーシップという考え方が広がってきていることからもわかるように、
ビジネス環境が急激に変化する現代社会では、カリスマ的なリーダーがひとりで組織を導くことは非常に困難といえます。
ですので、管理職は現場で働いている人から、必要な情報を的確に引き出し、
状況変化に応じて指示を出さなくてはいけません。
【ダイバーシティ&インクルージョンの浸透】
企業が持続的に発展するためには、人材の育成と適切な活用が必須です。
しかし現在、生産年齢人口が急速に減少しており、人手不足への対応から、
非正規雇用やフリーランス、外国人など、さまざまな人材を活用しなければ
会社がこれまでのように運営できなくなってきています。
また、当然、組織内にも若手やシニア、女性、LGBTQなどさまざまな価値観をもつ人材が所属するようになっています。
結果、組織にはさまざまな考えをもつ人材が所属したり関係したりするようになりました。
このような多様な人材と常日頃から良好な関係を構築しなくては、
現代の組織をうまく運営すること
はできません。
つまり、もはや自分や上司の経験や勘に基づくマネジメントでは対応しきれない、
ということです。
そこで、さまざまな考えをもつ人材に関わり、
育成していくためのヒューマンスキルが求められています。
これら2つの理由から、ヒューマンスキルの重要性が増しているのです。
ヒューマンスキルとは
ヒューマンスキルとは
「他者や組織と良好な関係を構築・維持するために必要な能力」のことです。
このヒューマンスキルは、1950年代にアメリカの経営学者ロバート・カッツ氏が
提唱した、管理職に必要とされる3つのスキルのうちのひとつとして紹介されました。
カッツ氏が紹介した3つのスキルとは以下のとおりです。
①テクニカルスキル(業務遂行能力)
②ヒューマンスキル(対人関係能力)
③コンセプチュアルスキル(概念化能力)

テクニカルスキルとは、実務を進めるために必要な知識や技術です。
ヒューマンスキルが人や組織との関係構築に必要なスキルであることに対し、
テクニカルスキルは業務を遂行するための専門的なスキルといえます。
たとえば、営業職であれば販売する商品の知識や説明力、
事務職であればPCスキルや資料作成力がテクニカルスキルとして挙げられます。
コンセプチュアルスキルは、概念化能力とも呼ばれます。
概念化とは、多くの知識や情報を整理分解し、複雑な事象に共通する点を見抜き、
目に見えない概念として捉えなおすことを指します。
たとえば、営業での成功体験や失敗体験から共通点を見出し、法則を導き出すことで、
営業効率を上げる、のようなときに必要となるスキルがコンセプチュアルスキルです。
コンセプチュアルスキルについて、詳しくはこちらのコラムをご覧ください。
そして、ヒューマンスキルは、対人関係能力とも呼ばれています。
前述のとおり、「他者や組織と良好な関係を構築・維持するために必要な能力」です。
ほとんどの仕事は周囲の人々との関わりを通じて進められます。
ですので、仕事を円滑に進めるためには、業種・職種・立場に関係なく、
社内外のさまざまなステークホルダーと良好な人間関係を構築することが求められます。
そして、カッツ氏のモデルの図からもわかりますが、ヒューマンスキルの重要性が最も
増すのは、中間管理職(ミドルマネジメント)層となる、管理職やリーダーです。
ヒューマンスキルを構成する8つのスキル
ヒューマンスキルは、大きく分けて次の2つの能力に分けられます。
・見聞きする能力
・伝える能力
見聞きする能力は、自分自身のものの見方・振る舞い方を自覚し、
自分とは異なる考え方があることを受け入れた上で、フラットな状態で物事を見たり、
他者の意見を聞いたりする能力です。
伝える能力は、自分の言動が相手にどのような影響を与えるかを考慮したうえで、
相手に適切に働きかける能力です。
そして、これら2つの能力は、以下の8つの個別スキルから構成されています。
・コミュニケーションスキル
・傾聴のスキル
・交渉のスキル
・ファシリテーションスキル
・プレゼンテーションスキル
・動機づけのスキル
・向上心
・リーダーシップ
ヒューマンスキルを高めるときには、上述した8つのスキルを個別に
習得していくことになりますが、すべてを完璧にすることはほぼ不可能です。
そこで、必要に応じて個別スキルを高めることをおこないつつ、
総合的に「見聞きする能力」と「伝える能力」を高めていくことを目指します。

1.コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルはヒューマンスキルの基本となるスキルです。
コミュニケーションスキルとは、
周囲とより良い関係を構築し、円滑に意思疎通をするスキルのことを指します。
お互いを尊重し、自分の考えを正しく伝え、相手の考えを受容し理解することは、
周囲を巻き込み仕事を進めていくうえで、非常に大切なことです。
2.傾聴のスキル
傾聴とは、「深いレベルで相手をよく理解し、気持ちを汲み取り、共感する」聴き方です。
傾聴ができる人は、良好な人間関係を築くことができるようになります。
たとえば社内でいえば、多様な考えをもつメンバーの意見を引き出し、
まとめていくことで、組織の結束力がグッと高まります。
傾聴については、こちらのコラムで詳しく知っていただけます。
社外の方を対象とした場合は、ヒアリング力と言い換えることができます。
たとえば営業であればクライアントの課題を引き出し理解することで、
高いレベルでの企画提案営業ができるようになります。
3.交渉のスキル
交渉力はパートナー会社との折衝や部署間の調整、上司との社内折衝、
または部下の目標設定など、さまざまな場面で必要となるスキルです。
仕事における交渉とは、
相手との継続的なビジネスの関係を築くことを前提としておこないます。
ですので、一方的に自分の要求や意見を押し付けるのではなく、相手にとってもメリットがあるように妥協点を探る必要があります。
「相手が得られるもの」について話しつつ、自分たちもまた得るものがある、
というような交渉ができると、Win-Winの関係を築くことができるようになります。
相手とWin-Winの関係を築く交渉術については、
こちらのコラムをご参考にしてください。
4.ファシリテーションスキル
ファシリテーションスキルは会議が円滑に進むようサポートするスキルです。
意見がでない、決まらない、決まっても実行されない会議は、参加メンバーの時間を
拘束するだけで、生産性だけでなくモチベーションも下げてしまいます。
ファシリテーションスキルを身につけることで、
メンバーからたくさんのアイデアを引き出すことができ、
その中から最良の選択肢を選ぶことができるようになります。
そうすることで、解決すべき問題が放置されなくなり、
組織を改善していくことができるようになります。
ファシリテーションについては、こちらのコラムで詳しく知っていただけます。
5.プレゼンテーションスキル
仕事においてより良い成果を出すには、自分の思いや考えを的確に伝えて、
相手を動かすプレゼンテーションスキルが必要です。
プレゼンテーションスキルを高めることで、
目標を共有し外部や他部署に理解を得やすくなったり、
チームメンバーと方向性を共有しやすくなります。
結果、相手の意思決定も早くなり、効率を上げることにもつながります。
・相手が理解でき、受け入れやすい言葉で伝える
・相手にイメージを想起させ、感情が動くように伝える
・自分の意志や決意を伝える
これらのことができるようになるプレゼンテーションスキルは、
社内外の多様な関係者と付き合う管理職にとって、非常に有用なスキルです。
6.動機づけのスキル
管理職が、組織のビジョンやミッション、あるいは自分の想いを、
自分の言葉でうまく伝えられず、士気を上げることができない、という課題は
最近非常に増えています。
多様な価値観をもつ若手社員や年上の部下、場合によっては外国籍社員などに囲まれるようになり、組織をまとめていく難易度は年々あがっていいます。
動機づけのスキルは、相手の意欲を引き出すスキルです。
「相手目線」をもちながらも、何のために取り組むのか目的を明確に伝え、
取り組むことで得られるメリットを、自分の言葉に分解して伝えることで、
メンバーの意欲を引き出すことができるようになります。
7.向上心
自らのスキルを磨き続ける能力が向上心です。
日本人は世界一学ばないと言われており、
向上心をもち続けられる人材は、非常に貴重です。
向上心をもつ人材が組織にいるだけで、
周囲に対して良い影響を与えることも期待できます。
管理職は、上司に一目置かれ、部下の手本となることが求められます。
ですが、忙しい日々に追われ、視野が狭くなり、向上心をもてなくなる管理職も多いです。人事は、キャリアデザイン研修などの場を用意し、管理職の『キャリア自律』を手助けすることなどの、対策をする必要があります。
8.リーダーシップ
これまでご紹介したスキルを総合して発揮されるのがリーダーシップです。
リーダーというとカリスマ的なリーダーを思い浮かべる方も多いと思いますが、
近年のリーダーシップは、
「メンバーと一緒に定めた目標に向かって取り組み、目標を達成するスキル」
とされており、組織のトップだけが発揮するものではありません。
その人に合ったリーダーシップを発揮することで、メンバーを支援し、
信頼関係のもと目標達成に向け行動することが求められています。
ヒューマンスキルを高めるメリットとは
では、ヒューマンスキルを高めることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは大きく2つに分けて、ヒューマンスキルを高めるメリットをご紹介します。
①ダイバーシティ&インクルージョンの推進
ヒューマンスキルを高めることは、
ダイバーシティ&インクル-ジョンの推進に貢献します。
なぜなら、相手の立場に立って、相手の意見を真摯に聞き、相手を受け入れようとする
ことは、ダイバーシティ&インクルージョンの最初の一歩だからです。
企業は、ダイバーシティ&インクルージョンを通じて、
「多様な人材が組織に所属し、かつそれら全ての人々が多様性を活かしつつ、
企業の成長と個人の幸せにつなげること」を目指します。
ヒューマンスキルを高めることで、世代や性別、国籍はもちろん、価値観やライフスタイルの違いによる心理的な隔たりを低くし、信頼関係を築き、お互いの違いを活かすことに
つなげることができます。
関連するコラムもぜひご覧ください。
■インクルージョンとは何か~ダイバーシティだけでは不十分な理由~
https://energyswitch-jp.com/column_whats-inclusion/
②意思決定のスピードと質が向上する
高いヒューマンスキルを持つ人材が増えると社内の風通しが良くなり、
コミュニケーションの量が増え、質も上がります。
そうなると、必要な情報を適時かつ適切に得られ、環境変化に対しても迅速に意思決定し、行動を起こすことができるようになります。
また、特に部下や後輩を育成する力が強化されることで、組織全体の戦力が向上し、
質=生産性の向上にもつながります。
ヒューマンスキルを高める取り組みとは
最初にご紹介したとおり、
今後ヒューマンスキルの重要性はますます増してくることが予想されます。
しかし、ヒューマンスキルは多岐にわたり、単発で研修を実施したり、
自主性に任せて動画研修を見せ、スキルを高めようとするだけでは、
ヒューマンスキルを高めていくことは困難です。
日々の業務や日常生活における人との関わりで生じる気づきや、
失敗・成功体験の蓄積によりヒューマンスキルは磨かれていきます。
つまり、スキルを習得するだけではなく、マインド面での成長も必要ということです。
ですが、忙しく仕事に追われる管理職が、みずからこうした経験を振り返り、
『自己理解』を深め、多様な価値観に対する豊かな感受性をもてるようになることは、
現実的ではありません。
そこで、企業は、管理職のヒューマンスキルを高めるために、
継続的な取り組みをする必要があります。
ここでは、その取り組みを2つご紹介します。
①定期的な研修の実施
管理職のヒューマンスキルを高める企業の取り組みとしては、
まず研修を定期的に実施することが挙げられます。
最近では、管理職昇格時の研修だけでなく、管理職昇格後も
継続して研修を実施する企業が増えています。
研修は、忙しい現場から一時的に離れ、
あらためて自分を振り返ることができる機会をもたらします。
また、外部のトレーナーによる刺激を得ることで、
視野を広げ、新たな気づきにつなげることもできます。
こうした研修を定期的におこなうことで、スキルだけでなくマインドも磨き、
ヒューマンスキルを組織の関係構築に活かしてもらうことができるようになります。
多様な価値観や働き方が認められていくなかで、
どう部下に関わればいいのかわからない管理職が増えています。
定期的に管理職をフォローすることで、コミュニケーションに対する障壁を低くし、
多少苦手意識があったとしても、円滑に関係構築ができるようにすることが重要です。
②面談の機会を増やす
1on1のような、定期的な面談を実施している企業もあります。
管理職は通常1on1をする側になることが多いですが、
1on1をされる側にすることも大切です。
たとえば管理職に向けて、
「必ず2週間に1回、担当するすべての部下と30分の1on1をおこなう」
という取り組みにくわえて、
「部長や経営層とも1か月に1回、かならず1on1の機会をもつ」
という取り組みをすることが事例として挙げられます。
部下と向き合うことで多様な価値観に触れるだけでなく、
自分も1on1を通じて振り返りができることで、ヒューマンスキルが磨かれていきます。
結果として、人間関係が良好な組織風土の構築につながります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この先、企業が持続的に発展していくためには、
管理職のヒューマンスキルを向上させることは不可欠です。
本コラムでご紹介したように、ヒューマンスキルは、
単純に特定のスキルを身につければいいというものではありません。
定期的な取り組みをおこない、
長い年月をかけて人材の育成と組織の風土を醸成していく必要があります。
ぜひ本コラムを参考に、具体的な取り組みを検討してはいかがでしょうか。
エナジースイッチでは、管理職のヒューマンスキルを高めたいというお悩みに対して、
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本記事を参考に、是非自社の目的や課題に合った研修を実施してみてはいかがでしょうか。