質問です、あなたならどうしますか?
「夜、家でくつろいでいると突然部屋の照明が消え、テレビなどの電化製品も全てオフになった」
<選択肢>
①家のブレーカーがあるところまで行き、ブレーカーをオンにする
②窓の外を見て、周りの家も暗くなっているかを確認する
③しばらくじっとしている
私はとりあえず「②窓の外を見て、周りの家も暗くなっているかを確認する」をおこないます。
もしも周りの家も暗かった場合は、スマホなどでネットから停電情報を確認します。逆に周りの家が明るかったら、自宅のブレーカーを確認します。あっ、真っ暗な部屋でブレーカーのあるところまで歩いて行くのは危険なので、そこに向かう前に懐中電灯や携帯電話の照明を持つ必要がありますね。
さて、ここからが本題です。とりあえず周りの家の明かりを確認することは、特におかしくない普通の行動と思われるかもしれません。しかし、ここには「もしも停電が起きているなら周りの家も暗くなっているはず」という“仮説思考”が働いています。今日はこの仮説思考を解説します。
仮説思考とは? 〜仕事の効率を上げる仮説思考〜
仮説思考とは、原因の特定や選択肢を絞り込む際、先に仮の結論や結果の予想をおこない、その仮説をもとに必要な情報を収集することで、効率良く目的を達成するという思考法です。この仮説思考の習慣が身につくと、何かを考えたり調べたりする時、結論や結果を出すまでのスピードが格段に向上します。
冒頭のケースでも、もしも停電が起きているかもしれないという仮説を先に考え、ブレーカーをチェックしに行く前に、周囲の状況の確認から行っています。もしも本当に停電だった場合は、ブレーカーを確認する手間がなくなり、今、どんな状況に置かれているかいち早く確認できます。
もちろんあくまで仮説なので、原因が停電でない場合もありえますが、ちょっと外を見てみる程度で余計な手間や現状把握が早くできるのであれば、それにこしたことはありません。
仕事では何をどこから考えれば良いか全くわからないような難しい問題に直面することもあります。そんな時もこの仮説思考はとても役に立ちます。
例えば、
ある業務処理システムで不正な出力データを発見したとの連絡を受けました。あなたはシステムエンジニアです。どうしてこのような不正なデータが出来ているのか調査しなければなりません。
原因はいくつも考えられます。入力データが最初から間違っていた、プログラムにバグがある、システムから出力後に何らかの原因でデータが書き換えられてしまったなどです。確認すべき箇所がいくつもあって、どこから手をつければよいかわかりません。
そんな時、仮説を立ててみます。
「もしもプログラムに誤りがあるのなら、不正なレコードはもっと大量に見つかる」
この仮説のもと、まずは不正データが他にもあるかどうかを確認してみます。
確認した結果、不正データが大量に見つかれば、データよりもプログラムの調査からおこないます。その逆で、他に不正データが見つからなければ、プログラムの調査は一旦保留し、入力元のデータから確認します。
ここでイメージしてみてください。入力データ、プログラム、出力データを一斉に調べようと思ったら、調査のために最低でも3人必要です。またその原因となる箇所が1つしかなければ、3人掛りでやっても2人はむだな調査をすることになります。
このようにひとつひとつの作業量が大きければ大きいほど、仮説思考は効果を発揮します。
仮説思考の実践3ステップ 〜仮説はブラッシュアップされるもの〜
仮説思考をおこなう流れは大きく3つのステップにわけられます。
・ステップ1:仮説を立てる
・ステップ2:情報収集(仮説検証)
・ステップ3:仮説ブラッシュアップ
例えば、
「最近、顧客からのクレームが多くなった。こうなった原因はどこにあるのか?」という問題を解決する際、仮説思考でおこなうとどうなるでしょうか。
・ステップ1「仮説を立てる」
わかりやすい説明をするときに、まず「結論」から述べましょうと言われますが、仮説思考でも同じように、まず「結論」から先に考えてみます。
結論:「クレームが多くなった原因は、顧客側の心理状態の変化が起きているから」
もちろん、この最初の段階で上記の結論は確かな根拠もないためあくまで仮説です。
・ステップ2「情報種集(仮説検証)」
仮説を立てたら次にその根拠となる情報を収集していきます。情報が集まっていくと少しずつ実態が見えてくるので、仮説どおりなのか、仮説とは異なるのかが徐々にわかってきます。
例えば、
最近の不景気のせいで顧客ニーズが変化しているとか、同業他社の悪いニュースの影響で業界全体のイメージが低下しているといった情報が集まると、仮説を立証する根拠となりえます。
・ステップ3「仮説のブラッシュアップ」
情報収集の結果、仮説どおりの事実や、仮説とは異なる事実が見えてきたら、その事実をもとに仮説をより精度の高いものにブラッシュアップします。
「顧客側に何らかの心理変化が起きている」という最初の仮説は抽象的で、そのとおり心理変化が起きていたとしても、それが何かわからないため、具体的な対策を考えることができません。
情報収集の結果をふまえ「顧客はサービスの価格に対して不満を持ち始めている」とか、「価格の値下げに比例して顧客のクレームも減る」というより具体的な行動に直結する仮説が立てられます。
仮説思考の精度を高めるコツ
ここからは、仮説思考をより実践的に活用していくためのコツをいくつか説明します。
仮説思考のコツその1「仮説はストーリー仕立てで考える」
何か問題が起きた際、その原因に対し一つの仮説を立てたとします。
例えば、
ある仕事で担当者と顧客との間でトラブルが起きた。
「トラブルの原因はその担当者が顧客の要望を理解していなかった」という仮説。そうすると、この仮説から、なぜ担当者は顧客の要望を理解できなかったのか?誤解してしまったのか?という疑問が湧き、この次に「担当者と顧客との間でコミュニケーションが不足していた」という仮説が考えられます。
<仮説のストーリー>
問題:担当者と顧客の間でトラブルが発生
仮説①:トラブルの原因は、担当者が顧客の要望を誤解していたため
仮説②:要望を誤解した原因は、担当者と顧客との間のコミュニケーション不足
(しっかり会話ができていれば要望を誤解しなかった)
しかし、ここでひとつの事実に気づきます。その担当者と顧客は何年も仕事を一緒にしており、最近でも頻繁に連絡を取り合っているということです。
仮説①はまだよくても、仮説②は明らかに実態と異なります。
こうやってストーリー仕立てで考えてみると、情報収集する以前に現状や一般常識と噛み合わないことに気づきます。
仮説思考のコツその2「どちらかを選択する際はそれぞれの仮説で比較する」
AとBのどちらを取るべきか?どちらをおこなうべきか?選択に迷った時、それぞれを選択した時に結果がどうなるか想像することがあります。ここにも無意識ですが仮説思考が働いています。
例えば、
これから外出するのに、午後から雨が降るかもしれないという天気予報。傘を持っていくべきか、置いていくべきかで悩んでいるという状況です。本当に雨が降るのか?降らないのか?いくら考えたところで、天気はその時になってみないとわかりません。
ここで2つの仮説を立ててみます。
①傘を持っていったにもかかわらず、雨は降らなかった
②傘を置いてきたにもかかわらず、やはり雨に振られてしまった
どちらがより悪い結果になるかを考えて選択をおこないます。
なお、この時の情報収集対象は、過去の経験や外出先はどんな環境か、といったものになります。
ちなみに私の場合は、傘を持っていったにも関わらず雨が降らなかった時は、かなりの高確率でその傘をどこかに忘れてしまうので、傘は持っていかないかもしれません。
仮説思考のまとめ「常に仮説を立てて先読みをする行動が仕事の効率をあげる」
これからの仕事では、何か問題に直面したり、選択を迫られた時、漠然と結果を想像して次のアクションをするのではなく、今回のコラムで解説したように、まず仮説を立て、次に情報収集、仮説のブラッシュアップという流れを意識的におこなってみてください。きっと多くの場面で、無駄のない効率的な動きができ、仕事のスピードが格段にあがります。
仮説思考研修事例紹介
ここからは、弊社で実際に実施した仮説思考研修の事例をご紹介します。ワーク課題も含めた1日間の研修事例です。
【研修事例】
テーマ:仮説思考
ねらい:仮説思考の基本を理解し、普段の仕事においても仮説思考を意識し、さまざまな判断や、問題解決のスピードを高める。
内容:
①オリエンテーション
トレーナーから仮説思考研修の目的と進め方を説明します。ここでは、仮説思考は学習して終わりではなく、普段の仕事で意識して使ってはじめて、効果を発揮するスキルであることを理解していただき、
研修後にどこまで使える状態になるかを、研修の冒頭に受講者と握ります。
②問題解決の基本プロセス
仮説思考を解説する前に、一般的な問題解決のプロセスを説明します。仕事において何か問題が発生した際、どのように問題を特定し、解決までの道筋を立てるべきかを先に知っておくと、この後のプログラムで仮説思考の効果的な使いどころが理解できます。
③ イシューと仮説、仮説のズームアウト/ズームイン
さまざまな問題に対して効果的な仮説思考ができるように、その解決すべき課題(イシュー)の特定と、それに対応する仮説の設定方法を学習します。事例をもちいて、仮説を設定する演習を繰り返しおこない、仮説思考の基本が身に付きます。
④ 仮説の選択
複数の仮説の中から、問題解決に最も効率的な仮説を選択する方法を学習します。演習をとおして仮説思考の使い分けがわかります。
⑤ ディスカッション
今日の学びを今後の仕事でどう活かせるかを、トレーナーと受講者間でディスカッションします。実践方法がより明確になります。またこのディスカッション自体も仮説思考がベースにある事に気づき、自分たちが仮説思考を使っていることをより強く体感できます。
弊社では、個社ごとに完全オーダーメイドで研修をご提案しております。
パートナーとして協力いただいている外部トレーナーが400名以上おり、
個社ごとに合った研修をプロデュースしております。
仮説思考研修のバリエーションも豊富です。
本記事を参考に、是非自社の目的や課題に合った研修を実施してみてはいかがでしょうか。