組織開発と人材開発はどう違う?~“多忙な人事”を救う組織開発のアプローチ~

目次

1. 忙しい人事のための組織開発のすすめ
2. 組織開発とは
3. 組織開発と人材育成とのアプローチの違いとは
4. 組織開発に取り組むメリットとは
5. 組織開発の4つの取り組みとは
6. 組織開発を実現させる2つのアプローチとは
7. 組織開発を推進する3つのステップ
8. 組織開発の展望

忙しい人事のための組織開発のすすめ

人事は、会社のなかでも特に忙しい部署です。

人事が抱える仕事は、
採用、労務、入社・退社手続き、定着支援、人材育成、
人事制度や評価制度の構築など多岐にわたります。

従業員規模が3,000名を超えるような大企業から中小企業まで、
ほとんどの人事が少数精鋭でさまざまな業務を兼務しており、
日々忙しく走り回っています。

また、経営陣と距離が近いのも人事の特徴です。

「何かいい方法を考えてよ」と、答えのない問いを投げかけられ、
忙しい仕事の合間をぬって暗中模索しながら、
主体的に仕事を進めていくことも求められます。

さらには、毎日のように社員からいろいろな声が届いて、
それにも対応しなければならない・・・。

このコラムを書いているのは11月初めです。
あと2か月で2022年が終わり、2023年を迎えます。

年末が近づくと、賞与や年末調整の対応、人事異動や採用などの方針作成、
来年度に向けた教育体系の検討や階層別研修の実施などが重なります。
また、この時期に上期の人事評価や面談を設定している企業もあります。

年末は、普段から忙しい人事担当者が、ますます多忙になる時期です。

【11月と12月の主な人事部スケジュール】

そんな、さまざまな人事課題を抱え、いつも忙しく走り回っている人事担当者を
将来的に“楽”にするために知っていただきたい取り組みが、“組織開発”です。

組織開発とは

組織開発とは、
組織に所属するメンバーたちの関係性をより良いものにすることで、
組織の目的・目標を達成する力や自己革新力を高める取り組みです。

1958年ごろにアメリカで誕生し、
欧米を中心に拡大した取り組みで、英語では“Organization Development”、
略して「OD」という言葉が使われています。

日本語では「組織」という単語は、
「組んで」「織りなす」という2つの言葉から出来ています。

さまざまな価値観をもつ人が集まってできた「集団」に、
共通の「目的」をもたせ、「協働」が生まれることで「組織」となります。

そして、組織内の課題を表面化させたうえで、
社員一人ひとりが当事者として自分の組織を成長させようと解決策を考え、
実行できるようにすることを、組織開発といいます。

組織開発と人材育成とのアプローチの違いとは

人材育成は、組織で活躍する人材、
つまり、“個人”のパフォーマンスを向上させるためにおこないます。

具体的には、
・社内でおこなう内製研修
・キャリア開発
・外部の有識者や専門家による研修や講演
・実習や実演
・OJT(On the Job Training)
などの、教育・訓練が挙げられます。

それに対して組織開発では、「人」そのものではなく、
人と人との間に生まれる
「関係性」や「相互作用」といったものが対象になります。

個人が成長したからといって、
みんながバラバラの目的をもって動いてしまうと、組織に遠心力が働き、
バラバラになってしまいます。

たとえば、「女性が管理職を目指してくれない」という課題があったときに、
女性の意識の改善やスキル向上を目指すだけでは、課題解決には不十分です。

ロールモデルとなり得る先輩女性社員や、女性社員との関わり方に迷っている
男性上司などとの“人間関係”や“組織構造”に着目し、
より良い関係や環境を築こうとするのが組織開発です。

最近では、人材育成を、組織の関係改善の視点でおこなう企業が増え、
両者の境目が明確ではなくなってきています。

組織開発に取り組むメリットとは

前述のとおり、組織開発とは、人と組織との関係改善やパフォーマンス向上を
目指す人事の悩みを解決に導いてくれる取り組みのひとつです。

VUCAの時代を勝ち残るためには、人事制度や評価制度、
あるいは規則などの会社のルールのような“ハードウェア”はもちろん、
社員のマインドを変えてより良い「企業文化・風土」を形成していくような
“ソフトウェア”への対策も同時に進める必要があります。

組織開発は、せっかく整備した“ハードウェア”が、
期待したとおりの成果をあげるために、
“ソフトウェア”面からアプローチする取り組みです。

たとえば新たな評価制度をつくり、
制度を整えるだけでは期待する効果を得ることはできません。
評価や面談は優劣をつけることが目的ではなく、
社員を励まして、もっと頑張ってもらうために実施します。

ですが、実際の現場では、評価や面談がなかなかうまく機能しません。
評価をされた側が、自分の評価に納得せず、モチベーションを下げてしまい、
結果離職につながることは非常に多く発生しています。

つまり、評価・面談で期待する効果を発揮させるためには、
普段から質の良い“関係構築”ができる風土をつくるという、
“ソフトウェア”に対する取り組みをしなくてはいけないということです。

人事異動や新規採用もそうです。異動した社員も、新たに入社した社員も、
この“ソフトウェア”があるかどうかで、
新しい環境で活躍できるかどうかが決まります。

いくら“ハードウェア”である働く環境を整えたとしても、
“ソフトウェア”である人と人、
あるいは人と組織との関係性が質の良いものでないと、
離職者が減らなかったり、何度も組織改編をしないといけなかったりと、
人事はますます忙しくなるばかりです。

多忙な人事だからこそ、「組織開発」に取り組み、
問題が次々と発生するようなサイクルを断ち切る必要があるのです。

組織開発の4つの取り組みとは

組織開発には、具体的にどのような取り組みがあるのでしょうか。

『日本の人事部 人事白書2019』によると、
「組織開発の目的をどのよう捉えているか」という問いに
対する回答の上位5つは、以下の通りでした。

・社内コミュニケーションの促進:54.8%
・風通しの良い文化の実現:52.6%
・エンゲージメントの向上:49.3%
・上司と部下の信頼関係の向上:47.6%
・チームワークの実現:47.6%

つまり、前述した“ソフトウェア”の面での働きかけが、
組織開発の目的だと認識されています。

そんな組織開発の取り組みには、以下の4つがあります。

①ヒューマン・プロセス(関係性への働きかけ)
②技術・構造的働きかけ
③人材マネジメントによる働きかけ
④戦略的働きかけ

①ヒューマン・プロセス(関係性への働きかけ)

現在最も主流といえる取り組みで、
人と人との間で起こっている問題に働きかけて改善を目指します。

たとえば、お互いの信頼性を高める活動や、チームの目標や
ビジョンを共有するなどのチームビルディング活動が挙げられます。
最近では、リモートワーク環境での関係構築のために、
“雑談力”がよく注目されています。

また、ヒューマンスキルを向上させるための研修も当てはまります。

②技術・構造的働きかけ

製造などの技術を改善して効率性を上げるような取り組みが挙げられますが、
それだけではありません。
実は、組織の構造を変革するような働きかけ、という意味を含んでいます。

つまり、「部門ごとの役割」、「部門を超えた調整」、「仕事の進め方」
といった組織の構造的な問題へのアプローチも、“技術・構造的働きかけ”です。

たとえば、社員の行動や態度を調査し、
そのデータを組織メンバーにフィードバックすることで
職場や組織の改善を図る、サーベイ・フィードバックという手法があります。

また、企業全体、あるいは部門や部署単位でおこなう研修も当てはまります。

③人材マネジメントによる働きかけ

人事部が主におこなう、
報酬体系や評価制度の改善、人事制度構築のような取り組みを指します。

たとえば、個人のキャリア設計に基づいたキャリア開発に対する取り組みや、
社員のメンタルヘルス改善、1on1制度の導入と運用などが挙げられます。

特に1on1は最近多くの企業が導入している取り組みです。
1on1はうまく機能させると、部下と上司の対話が活発になり、
それぞれのモチベーションを上げ、信頼関係を構築することにつながります。

④戦略的働きかけ

組織の中長期的な戦略を、組織を構成する個人レベルにまで浸透させ、
組織文化を変革していく取り組みを指します。

たとえば、ビジョンやミッションに基づいた経営の実践を目指す取り組みは、
最近とくに注目を集めています。
その場合、人と人、人と組織との関係性に配慮しながら、
一貫性をもった取り組みとすることが重要です。

また、仕事で得たナレッジを組織全体で共有することで、
競争力を高めるナレッジ・マネジメントの取り組みなども挙げられます。

組織開発を実現させる2つのアプローチとは

これら4つの取り組みを実現させるためのアプローチには、
診断型組織開発と対話型組織開発の2つがあります。

【診断型組織開発】

組織開発実践者がインタビューやアンケートを実施することで、
何らかの組織のデータを獲得し、そのデータをもとに組織を“診断”します。
そして、その診断結果をフィードバックすることで、
組織に何かしらの働きかけをおこなうアプローチを
「診断型組織開発」といいます。

「組織には客観的に望ましい目指す姿がある」という前提のもと、
その姿との差分を従業員満足度調査やエンゲージメント調査などで
定量的に測り、組織課題を見つける手法です。

【対話型組織開発】

データの収集や分析などの組織への“診断”をおこなわず、
ステークホルダーによる対話を中心として、
組織がよりよい状態となるように働きかけていくアプローチのことを
「対話型組織開発」といいます。

人によって望ましい姿は違うという前提のもと、
対話によってメンバー間の認識の齟齬や物事のとらえ方の違いを
認識させることで、個々人の行動変革を促す手法です。

診断型組織開発は、客観的かつ科学的に組織課題を抽出できるため、
上司や経営層の理解・納得が得られやすいですが、
調査・分析によって組織を診断する側と、
診断され変革に向けた取り組みをさせられる側で、
温度感の違いから分断が起きやすく注意が必要です。

そのため、診断結果から組織課題を抽出し、
課題解決に向けて何に取り組むかを部門ごとに決定させて、
当事者意識を持ってもらうなどの工夫が必要です。

対話型組織開発は、上手くいけば異なる考え方を
許容しダイバーシティを実現できる可能性がある反面、
みんなそれぞれバラバラで良いと曲解され、
逆に組織としての一体感を損ないかねない手法でもあります。

そのため、あらゆる見方を共有した後に、
組織としての核となる考え方を定めるといった工夫が必要です。

どちらか片方だけをおこなうというよりは、
組織の現状に応じて、両方をうまく組み合わせて進めることで、
組織開発を実現させていくことが重要です。

組織開発を推進する3つのステップ

立教大学教授中原淳氏は、診断型にしても、対話型にしても、
組織開発には共通する3つのステップがあると提唱しています。

【ステップ1:見える化】

ステップ1の「見える化」では、
組織の抱える問題・課題の可視化をおこないます。
見える化の方法は組織診断のようなツール、アンケート、
あるいは面談による聞き取りなどを通じておこないます。

【ステップ2:ガチ対話】

ステップ2の「ガチ対話」では、
可視化されたテーマについて関係者一同で真剣勝負の対話をおこないます。

対話の場をつくる際は、
「まずはお互いの声に耳を傾ける」
「お互いの意見は尊重した上で、反対の意見も述べる」など、
対話の場で参加者が意識したいルールを事前に共有した上で、
「心理的安全性」が感じられる雰囲気のなかで話ができるように、
場をつくっていきます。

【ステップ3:未来づくり】

ステップ3では、
対話によって見出された「未来づくり」を関係者一同で共有します。
そして、関係者間で合意された、
未来をつくるためのアクションを明確にするとともに、
いつまでに、誰が、何をするのかを見える化にして、進捗を管理します。

対話を通じて生まれてきた想いや行動の芽を、
そのままにするのではなく、しっかり進捗管理することで育てていきます。
「いろいろ話せて楽しかったね」だけで終わる場にはしないことが重要です。

組織開発の展望

日本では現状、どちらからというと、
診断型を採用する企業が多くみられます。
診断をして、分析して、どうするかを決める、
という“客観的な事実”に基づく問題解決のプロセスに慣れているからです。

ですが、現在は不確実性が高まり、
組織にはこれまで以上に多様性や創造性が求められる時代になっています。
つまり、事実の確認よりも、
いかに社員の可能性を引き出せるかが重要になっています。

ですので、今後は、診断型よりも対話型のほうが重視されると予想されます。

実際、最近は1on1研修や、コーチング研修、育成力アップ研修など、
対話型の組織をつくるために必要な研修を導入する企業が増えています。

組織での戦いは、組んで織りなすという言葉が意味するように、
個人戦ではなく、共通の目標をもったメンバーと協働するチーム戦です。

エナジースイッチには、人材育成の観点から15年間、
多くの企業様の組織開発をお手伝いしてきた実績がございます。

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まとめ

いかがでしたでしょうか。

経営と現場の双方に貢献する人事部門へと進化を遂げるためには、
組織開発を成功させることが不可欠です。

そして、組織開発を通じて人と人、人と組織との関係が良くなることによって、
人事の仕事も“楽”になっていきます。

本コラムを参考に、
働く環境整備のような“ハードウェア”の取り組みと
組織開発という“ソフトウェア”の取り組みをつなぎ、企業に貢献できる
戦略的なパートナーとしての人事を目指してはいかがでしょうか。

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