現代は、外部環境が急速に変わり、先が読めないVUCAの時代です。
そんななか、組織において求められるのが“主体性をもった”人材です。
企業の組織力や変化対応力を高めるための、
社員のオーナーシップをはぐくむ取り組みに今、改めて注目が集まっています。
“オーナーシップ”は、端的に言うと
「仕事に当事者意識をもって取り組む姿勢」のことです。
オーナーシップをもった社員が多い組織では、コミュニケーションが活発になり、
リーダーシップを発揮するメンバーが増え、顧客満足度が上がるなど、
さまざまな場面で好循環が生まれやすくなります。
このコラムでは、オーナーシップの概要とメリット、オーナーシップをはぐくむ
マインドセットのポイントをご紹介します。
・オーナーシップとは
・オーナーシップとフォロワーシップの違い
・社員のオーナーシップをはぐくむ効果とメリット
・オーナーシップをはぐくむ3つのポイント
・オーナーシップ研修事例紹介
オーナーシップとは?
〜仕事への向き合い方を変え、強い組織をつくる〜
オーナーシップは、個人と組織、あるいは個人と仕事との関係性を示す言葉です。
自分が所属する組織の課題やみずからの仕事などに対して、「当事者意識をもって
向き合い、主体性を発揮して取り組む」ことがオーナーシップをもっている状態です。
特に近年では、“受け身”の若手社員に悩まされている企業が増えています。
社員が仕事を「自分ごと」としてとらえ、取り組んでもらうことを、
多くの企業が望んでいます。
オーナーシップ(ownership)は、英語の「owner(所有者)」などと同じように、「own(所有する)」が元となった言葉です。
オーナーシップのポイントは、仕事を「上司から言われたからやっている」という他人ごとではなく、「自分の仕事」と認識することです。
問題が起こったとき、多くのビジネスパーソンは、目にみえる分かりやすい部分、
つまり自分をとりまく環境に注目しがちです。
そして、自分がうまくいかない、変われないのは環境が変わらないからだ、と、
まず外側を変えることを求めます。
言い換えると、組織構造や戦略、制度、マネジメントのスタイルなどを変えてほしいと
思ってしまうということです。
ですが、グローバル化やテクノロジーの進化などにより企業をとりまく環境が複雑化して
いる昨今、外側を変えるアプローチでうまく乗り越えられ続けるとは限りません。
社員一人ひとりが自分から主体的に動き、また、周りが変わることを待たずみずからを
変えることによって、柔軟に問題に対応できる強い組織文化が醸成されていきます。
自分の内面から変わることによって、仕事をとりまく人や組織との関係性がよくなり、
成果を上げ続けられる人材になることができるのです。
フォロワーシップとリーダーシップとの違い
オーナーシップと似た言葉に、フォロワーシップやリーダーシップがあります。
これらは、当事者意識と主体性をもつという点では共通ですが、
それぞれ違う意味をもっています。
これらの言葉を混同して使う方もいらっしゃいますので、簡単に違いをご紹介します。
まず、フォロワーシップとは、「組織やリーダーの方針や施策に自律的かつ主体的な姿勢で向き合い、メンバーに働きかけ支援する姿勢」です。
フォロワーシップは、「従う」という意味の言葉が入っていることから、
一見受け身なイメージをもつかもしれません。ですが本当は、
「フォロワーシップがリーダーシップ開発の原点である」とも言われるほど、
主体的な意味を含んだ言葉です。
リーダーシップは、「組織やチームをまとめ行動をうながし、目標達成に向けて正しい方向へ導く力」を指します。指導力や統率力とも表現されることがあり、マネジメント要素の意味を含んでいます。
最近では、組織に所属する全員がリーダーシップを発揮すべき、というシェアド・リーダーシップのような考え方も広がってきています。
ですが、一般的にリーダーシップは「組織を率いる立場の人」に特に必要といえます。
まとめると、フォロワーシップやリーダーシップは、
組織を統率するリーダーと支援するフォロワーがいてこそ成り立つ言葉です。
一方でオーナーシップは、個人がもっている課題や仕事に対しての関わり方を示すときに
使われる言葉であり、組織にいる全員が習得すべきものです。
この点が、オーナーシップとフォロワーシップやリーダーシップとの大きな違いです。
社員のオーナーシップをはぐくむ効果と5つのメリット
オーナーシップがはぐくまれると、自立して仕事に取り組み、
能動的な姿勢をもつようになります。
多くの社員がオーナーシップをもつことで、以下のようなメリットが生まれます。
■ミスやトラブルが減る
社員のオーナーシップが発揮されない組織は、それぞれが受け身で
「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」と考える他責の文化になります。
一方で、オーナーシップをもつことは、
「この仕事は自分の仕事である」という責任感につながります。
一人ひとりの社員が「自分は今何ができるのか」と仕事に向き合うことで、ミスやトラブルが減り、品質が安定し、さらには向上することも期待できます。
■コミュニケーションが活発になる
社員がオーナーシップをもつ組織では、自分の仕事をスムーズに進めるために、
自然と周囲のメンバーとの関わりが増えます。
視座を上げて自分がなにをしたらいいのか、を理解しないと、
高いレベルで仕事を完結させることができないからです。
情報を共有することは、組織や仕事全体のことを把握し、最適な行動を選択するために必須です。
コミュニケーションが活発になることは、自分の仕事のクオリティが上がるだけでなく、
お互いに助け合うチームづくりにもつながります。また、それぞれの成功・失敗体験や
ノウハウの共有を通じて、新しいアイデアの創出にもつながります。
さらには、なれ合う関係ではなく、お互いに高め合う関係をつくろうと、フィードバックの文化が根付くことも期待されます。
■顧客満足度が上がる
オーナーシップをもつと、会社や組織のミッションやビジョンを自分ごととしてとらえる
ことができます。
「何のために、自分は今何ができるのか(したいのか)」
を社員一人ひとりが意識して仕事をすることは、アウトプットの質が高まることにつながりますので、自然と顧客満足度が向上します。
また、顧客へのサービス提供は、営業やカスタマーサクセスのように直接お客様と関わる
メンバーだけでなく、製造や物流、開発、事務など、さまざまな部門が間接的に関わります。そんな多様な部署のメンバーの認識をそろえ、
「顧客に満足してもらえるサービスを提供するのは自分の仕事」だと考えられる組織では、顧客に提供されるサービスの品質がさらに向上することが期待できます。
■レジリエンスの高い組織になる
オーナーシップをもてない社員が多い組織では、仕事がうまくいかない理由を
「外部環境の変化」に求めます。そして、その変化に対応するのは経営陣やマネジメント層の役割だと考え「自分以外の誰かが解決すべきだ」と他人ごとでとらえます。
結果として、指示待ちの社員ばかりが増え、経営陣やマネジメント層だけがなんとかしようと指示をしても、思ったように動いてくれない組織になってしまいます。
一方で、社員一人ひとりがオーナーシップをもつことができると、「外部環境の変化」に
対応するのは自分だと考えます。仮に役職がないメンバーであったとしても、各現場の仕事で主体的に変化を起こそうとします。
それは、組織のレジリエンスを高めるとともに、積極的に情報を経営陣やマネジメント層と共有することで、良い刺激が生まれ、大きな変革につながる可能性も高まります。
高度経済成長期のように、組織のなかにいる数人の役職者だけが意思決定をする組織では、VUCAの時代を生き残ることは困難です。
全員が対応を考える組織を目指すことで、企業の持続可能性が高まります。
■人材育成の効果が高まる
人事の方が一生懸命社員のために研修を受講できる環境を整えたとしても、受け身の姿勢の社員ばかりだと、言われたから仕方なく研修に参加する意識になります。
学ぶことに対するモチベーションも低く、「とりあえず表面的に参加すればいいか」と
考え、人事の方が期待する効果は得られません。
しかし、社員がオーナーシップをもてば「自分にはどんな成長が必要か」をみずから考えることができるようになります。
自分を成長させたいという思いは、能動的な研修参加につながります。
目的をもって研修に参加することで、
人事の方が期待する“研修後の受講者の姿”に近づきやすくなります。
また、「現場でどう使うか」「成長のためにすぐにできることはなにか」などと考え、
研修後の実践につなげられる可能性も高まり、高い研修効果が期待できます。
ですので、社員に対して人材育成の機会を積極的に提供したいと考える人事の方には、
社員が新人~若手のうちにオーナーシップを身に付けさせることをおすすめしています。
また、オーナーシップはリーダーシップにもつながりますので、
リーダーを育成しやすくなるというメリットもあります。
オーナーシップをはぐくむ3つのポイント
オーナーシップをはぐくむにはどうしたらいいのでしょうか。
それには、以下の3つのポイントがあります。
■情報を共有する
オーナーシップをもってもらうためには、情報共有がなくてはならないものです。
正しく情報を把握していないと、正しい行動や正しい判断はできません。
情報を把握することで、組織や会社の結果に責任感をもてるようになります。
「もっと視座を上げて、経営層や管理職と同じ視線で考えて欲しい」というのであれば、
そのために必要な情報を提供する必要があります。
たとえば最近では、意思決定をする会議に経営層以外を参加させたり、経営層や管理職層
での会議の話し合いをつぶさに共有したりするなど、情報に透明性をもたせ、風通しの良い文化を醸成しようとする企業が増えています。
ただし、情報は正しく理解できなくてはいけません。
必要に応じて、アカウンティングやマーケティングなどの知識教育をすると、
相乗効果が生まれます。
■権限を委譲する
管理職などがもっている決定権や決裁権を委譲して、仕事に責任をもたせることで、
オーナーシップをもつことができるようになります。
自分で決めて、自分で責任を取れない仕事にオーナーシップをもつことは
難しいといえます。
人は「自分が決めた」ことにこそ、強い責任感を持てるものです。
いきなり権限を委譲しなくても、まずは管理職層や経営層が、自分の業務内容や
仕事のスケジュールを共有することで、社員の視座が上げる取り組みもあります。
オーナーシップがない社員に権限を委譲することはできない、と考えるだけでは、前進することはできません。社員を信じ、どうすれば権限を委譲できるかを考える必要があります。
たとえば、特に信頼できそうな特定の社員から権限を委譲していく、管理職がわざわざ決裁しなくてもよいと思う業務から自己決裁の範囲を広げていく、足りないスキルを補うための教育機会を増やす、など、いくつかの手段を実施することをおすすめします。
■失敗を認める
社員がオーナーシップをもつためには、心理的安全性が確保されていることが重要です。
失敗すれば責任を追及されるという思考が広がっている組織で、オーナーシップを発揮することはリスクです。そうなると言われたことだけやったほうが安全となってしまいます。
失敗に対して、真摯に反省をうながし、場合によっては適切に叱ることは必要ですが、
失敗は最も大きな学びの機会です。失敗を許容し、経験学習できるような組織文化をつくることで、オーナーシップをはぐくむことができます。
そのためには、OJTでの適切な指導や、それをできるようにするための
研修機会の創出が必須です。
ぜひ学ぶ機会を増やし、社員一人ひとりがオーナーシップをもてる組織風土づくりを
目指してください。
まとめ
オーナーシップは、自分の仕事に対する責任感や当事者意識につながります。
そして、社員一人ひとりがオーナーシップをもつことで、しなやかなで負けにくい組織を
つくることができます。
また、研修などで思ったような学習効果が得られない、そもそも参加してくれない、などと悩んでいる人事の方には、まずは社員にオーナーシップを身につけてもらう研修もおすすめです。
ぜひ本コラムを参考にして、オーナーシップ向上に取り組んでみてください。
オーナーシップ醸成研修事例紹介
ここからは、弊社で実際に実施したオーナーシップ醸成研修の事例をご紹介します。
組織への貢献意識が薄れている受講者を対象に、2日間の研修で、内省を通じて自身の内面を深く見つめなおしてもらうことで、「自分から」行動を変えようと意識を変えていただくことを目指した研修です。
【研修事例】
テーマ:
オーナーシップ
ねらい:
・組織の中で自分を発揮する場を自分で創りだせるようにする
(オーナーシップを醸成する)
・環境や役職に関わらず、「仕事を通して自分自身の人生を生き抜く」ために、
主体的な行動ができるようになる
・自律的なキャリアを描くイメージをもつ
内容:
① 気づきのセッション1
研修のねらいと進め方を説明し、自己紹介をします。
また、なぜ研修を実施することになったかの背景も説明し、
自分の内面から変えることの必要性に納得してもらいます。
さらに、自分の期待役割や思いと、実際の行動を振り返り、両者の間にある乖離を
感じ取ってもらいます。
② 気づきのセッション2
主体性について説明し、理解を深めます。
そのために、「自分の仕事の挑戦の現状」や「自分の仕事のとらえ方や実際の行動傾向」を見つめ、自分の仕事への取り組み姿勢が“受け身”になっていることを理解します。
そうすることで、自分を見直し、自分の可能性を広げられることに気づくことができます。
③ 気づきのセッション3
自分がもっている固定観念について気づきます。
「こうすべき」「こうあるべき」という考えが自分の行動を制限していることを知り、
自分のものの見方以外にも考え方ややり方があるはずだ、と視点を変えることを目指して、さまざまなワークをおこないます。
④ 思いのセッション
会社のミッションを見つめなおし、自分の仕事の意義ややりがいを見つけます。
また、これまでの自分の人生を振り返り、自分が大切にする価値観や未来の自分のあり方を考え、会社のミッションやビジョンと重ねていきます。
そうすることで、企業理念をより意味があるものとしてとらえられるようになり、
仕事への姿勢が主体的になっていきます。
⑤ 行動のセッション
自分の思いを活かして、これまでの自分の行動を変える最初の
「小さな」第一歩を決めます。
さらに、行動を変えようとする自分を阻む思考があることも理解し、それに負けない自分流のスタイルを明確にします。
研修全体を通じて、「内発的な動機づけ」によってみずから行動できる人材になっていきます。
弊社では、個社ごとに完全オーダーメイドで研修をご提案しております。
パートナーとして協力いただいている外部トレーナーが400名以上おり、
個社ごとに合った研修をプロデュースしております。
オーナーシップを醸成する研修のバリエーションも豊富です。
本記事を参考に、是非自社の目的や課題に合った研修を実施してみてはいかがでしょうか。