突然ですが、皆さんは「リーダーシップ」と聞くとどのような人を思い浮かべますか?
企業でいえば社長や部長、スポーツでいえばキャプテンを想像する方も多いのではないで
しょうか?もちろん、社長や部長、キャプテンにもリーダーシップの発揮は必要です。
しかし近年では、それら役職者以外のメンバーにもリーダーシップの発揮が求められています。
石川(2019)によれば、「リーダーシップは公式の権限を持っている上司だけではなく、権限を持たない部下であっても十分に発揮することができる」とあります。
つまり、職場の役職を問わず、誰であってもリーダーシップを発揮することは可能であり、なおかつ、職場にいる全員がリーダーシップを発揮することが求められているのです。
このような、職場全員がリーダーシップを発揮している状態のことを、
「シェアド・リーダーシップ」といいます。
今回はそんなシェアド・リーダーシップについて、分かりやすくご紹介します。
シェアド・リーダーシップとは
以前のコラムでもご紹介したように、そもそもリーダーシップとは
「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」(石川 2016)
のことで、簡単にまとめると”周囲の人に与える影響力”です。
一方でシェアド・リーダーシップとは、「チーム・メンバー間でリーダーシップの影響力が配分されているチーム状態」(石川 2013)のことで、”職場全員がリーダーシップを発揮し合っている状態”です。
リーダーは他者をけん引したり支援したりと、リーダーの特性に合わせたリーダーシップを発揮します。それに対して、メンバーはフォロワーシップを発揮します。
一方で、メンバーだった人がリーダーシップを発揮していれば、その人がリーダーとなり、他の人はフォロワーとなります。
このようにして、職場の全員がそれぞれのリーダーシップを発揮し合い、リーダーと
フォロワーが入れ替わり続けている状態こそが、シェアド・リーダーシップなのです。
前述のとおり、シェアド・リーダーシップの大きな特徴は、役職者以外もリーダーシップを発揮していることです。そもそもリーダーシップとは他者に与える影響力なので、誰かに影響を与えていれば、それはどのような行動であってもリーダーシップなのです。
例えば、
・会議で役職者でないメンバーからも積極的に意見が出てくる
・メンバー同士で自発的にフィードバックや情報交換をしている
などが、職場でシェアド・リーダーシップが発揮されている状態です。
なぜシェアド・リーダーシップが求められているのか
それでは、どのような背景から、シェアド・リーダーシップが求められるようになったのでしょうか?
近年、日本企業ではリーダーシップを求められる層が拡大しています。
舘野(2019)によると、「一部のマネジャーや幹部候補など権限や役職を持つものだけではなく、企業で働く全ての従業員にリーダーシップを身に付けさせようとする流れ」が来ているといいます。
なぜなら、現在はVUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性、の頭文字を取った造語)時代と呼ばれ、ビジネスにおいて予測が難しい状況だからです。
社会の変化が激しいからこそ、職場の誰もが確実な答えを持っているわけではありません。
そのようなVUCAの時代において企業が持続可能性を高めるためには、職場全員で仮説立てて仕事を実践し、学習し、その職場なりの正解を見つけていくほかありません。
カリスマ的なリーダー1人が職場を引っ張ることには限界があります。なぜなら、「自分が取り組んでいる仕事が正解であるか」を確認することができる範囲は、1人では限られるからです。
だからこそ、より多くの人がリーダーシップを発揮し、全員が各々の特性を生かし、得意分野で力を発揮することが必要なのです。
このように、変化が激しい現代において、リーダーシップとはもはや役職者だけが発揮するものではなく、社員全員が発揮すべきものとなっています。
そして冒頭でもご紹介したように、社員全員によるリーダーシップの発揮は可能である、
という認識が広まってきているのです。
シェアド・リーダーシップの2つの効果
では、そんなシェアド・リーダーシップが生み出されている職場には、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか?
石川(2016)によると、シェアド・リーダーシップは
職務満足や組織コミットメントを生み出すとされています。
具体的なプロセスとして、まずシェアド・リーダーシップが発揮されている職場では、メンバーの参画意識やチームワークが向上します。
それを介して、仕事そのものや人間関係に対する職務満足が生まれたり、組織コミットメントが生まれたりします。
結果、欠勤や転職の減少、役割外行動の増加、さらには個人の業績向上が見込めます。
役職者のみが引っ張るのではなく、メンバーから主体的に業務や部署に働きかけてくる、
活気づいた職場が想像できますよね。
さらに、シェアド・リーダーシップによってメンバーのモチベーションも向上します。
メンバーがリーダーシップを発揮する機会が増えることで、職場の意思決定に関わる機会も自ずと増えます。そうすると、メンバーの内発的モチベーションが想起され、職場の業績に良い影響を及ぼすようになるのです。

シェアド・リーダーシップで気をつけなければいけないこと
一方で、シェアド・リーダーシップは正しく発揮されないと、職場に悪影響を及ぼすこともあります。
具体的には、メンバーひとりひとりに企業や部署の目的を理解してもらい、その目的に向かってリーダーシップを発揮してもらう必要があります。
シェアド・リーダーシップは各メンバーが相互に影響力を及ぼしあっている状態です。
しかし、各メンバーのリーダーシップを発揮する方向がバラバラだと、職場全体でまとまりのない状態に陥ってしまうのです。
このような背景もあり、近年、「ビジョン」や「パーパス」を大切にする企業が増えています。そのため、弊社の実施している研修でも、リーダーシップ研修はもちろん、女性活躍などのダイバーシティ&インクルージョン推進研修やキャリア研修など、さまざまな研修に「ビジョン」や「パーパス」に関するセクションを入れることが多々あります。
「ビジョン」や「パーパス」は企業ごとによって大きく異なるため、決められた研修で対応することは難しく、弊社のようなフルカスタマイズで研修を実施している研修会社への相談が最適です。
自社の「ビジョン」や「パーパス」を大事にした研修を実施したい方は、
ぜひこちらからご相談ください。
シェアド・リーダーシップが活用されている事例
ここまでご紹介してきたシェアド・リーダーシップですが、企業ではどのように活用されているのでしょうか。
キヤノングループでは、強いチームを作る条件として、シェアド・リーダーシップの発揮が重要であるとしています。これからの時代は変化が激しいからこそ、指示通りに動くのではなく、各メンバーが考えて対応できるチームが生き残っていくという考え方です。
実際に、キヤノンマーケティングジャパン株式会社では、グループ初の取り組みに対し、
各専門スキルを持った10名のメンバーでお客さまの要望に応える、といった体制を取りました。
多種多様なメンバーが同じ目標に向かって協働するため、お互いに連携しながら進めるといった工夫によりプロジェクトを完遂しています。
具体的には、お互いに相手のスキルや立場などを考えながら巻き込んだり、課題解決に向けて足りないスキルを補えるよう、時には新たな人材を入れてチームを変化させたり、といった方法でシェアド・リーダーシップを生み出していったのです。
このように、変化が激しく予測がつきづらい時代だからこそ、企業においても各メンバーがリーダーシップを発揮し合う、シェアド・リーダーシップが強く求められているのだといえます。
おわりに
ここまで、シェアド・リーダーシップの概要や得られるメリット、企業での実例についてご紹介してきました。
次回のコラムでは、シェアド・リーダーシップを職場で生み出す手段の一つである
「経験学習型リーダーシップ開発」についてご紹介していきます。
ぜひご覧ください。
リーダーシップ研修事例紹介
ここからは、弊社で実際に実施したリーダーシップ研修の事例をご紹介します。
ビジョンや目的を伝えて職場をまとめ、周囲を巻き込む影響力を発揮できるようにする人材を育成することを目指した研修です。
「ストーリーメソッド」という、映画で学ぶプログラムで、演習も含めた一日間で実施しました。
【研修事例】
テーマ:
ストーリーメソッドで学ぶ『リーダーシップ研修』
ねらい:
・チームメンバーに共通のゴールを示し、成果の最大化に向けて質の高いビジョンで
チームを動かせるようになる
・関係者を巻き込んで想いを伝え、信頼し、任せるリーダーを目指す
内容:
① オリエンテーション
トレーナーからリーダーシップを身につける必要性を説明します。
また、トレーナーから積極的に自己開示することで、発言しやすい場をつくります。
② リーダーに必要な“ブラガブルズ”
映画を視聴後、グループワークとペアワークを実施します。
自分がリーダーとして、メンバーが自分のもとで働く理由を考え、自分のプロフィールを
つくります。
チームメンバーを納得させる正当性とはなにかがわかります。
③ ワンメッセージを伝える
自分の職場にある共通の目標やその効果的な伝え方を考えたうえで、映画を視聴します。
自分の言いたいことをひと言で、分かりやすく使えることの重要性を理解し、ペアワークで練習します。
(1)共通のゴールを分かりやすい言葉で示す
(2)努力の焦点を明確にする
(3)データと数字で示す
④ ビジョンで人を動かす
自分の組織のビジョンが何かを考えたうえで、映画を視聴します。
どのようにビジョンを策定し、共有するのかを学び、質の高いビジョンでチームを動かす
手法を習得します。
(1)チームビジョンを策定する
(2)ビジョン共有の秘訣
(3)インテンシブコミュニケーション
⑤ ネクストリーダーの育成
ビジョンを理解する協働者をつくるために、メンバーとの信頼関係構築方法と仕事の任せ方を学びます。
⑥ アクションアイディアシート
映画を視聴し、これまで学んだことを振り返りながら、現場でリーダーシップを発揮するための具体的なアクションをつくり、全体でシェアします。
⑦ まとめ
研修全体を振り返り、トレーナーの体験談も交え、現場での実践につなげられるよう、
背中を押します。
(1)質疑応答
(2)振り返り
弊社では、個社ごとに完全オーダーメイドで研修をご提案しております。
パートナーとして協力いただいている外部トレーナーが400名以上おり、
個社ごとに合った研修をプロデュースしております。
リーダーシップをテーマにした研修バリエーションも豊富です。
本記事を参考に、是非自社の目的や課題に合った研修を実施してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
石川淳(2013)「研究開発チームにおけるシェアド・リーダーシップ:チー ム・リーダーのリーダーシップ、シェアド・リーダーシップ、チーム 業績の関係」、『組織科学』、Vol.46 No.4 67-82。
石川淳(2016)『シェアド・リーダーシップ:チーム全員の影響力が職場を 強くする』、中央経済社。
石川淳(2019)『リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】:高校生・ 大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」』、北大路書房、24-52。
舘野泰一(2019)『リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】:高校 生・大学生・社会人 を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」』、北大路書房、53-79。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
『これからの時代を勝ち抜くた めに必要な強いチームの条件とは』
https://canon.jp/business/trend/strong-team